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長谷川摂子/スズキコージ『たいこたたきのパチャリントくん』

 2冊目。いやー、めちゃくちゃおもしろい! 「ぐしゃりとつぶれたおおきなやかん」から出てきた「パチャリントくん」の冒険物語。どこに連れて行かれるのか分からない、ジェットコースターのような展開に度肝を抜かれました。ちょっと破壊的なところもよいです。なんだかまだ続きがありそうな終わり方なのですが、もしかすると続編があるのかも。というか、ぜひ続きを読みたい(^^;)。スズキコージさんの絵も、炸裂しまくっています。空も波打ち歪んでいます。これはすごい。この絵本、おすすめです。

▼長谷川摂子 さく/スズキコージ え『たいこたたきのパチャリントくん』「こどものとも」2000年3月号(通巻528号)、福音館書店、2000年

まど・みちお/スズキコージ『おならはえらい』

 2冊目。まど・みちおさんの詩にスズキコージさんが絵を付けた「うたうたうたう」シリーズの1冊。この絵本では「ゆび」「ごはんをもぐもぐ」「くしゃみのうた」「おならはえらい」の4つの詩が取り上げられています。スズキさんの絵というとあやしい雰囲気に満ちた色鮮やかな彩色の印象が強いですが、この絵本ではいつもと違って(?)切り絵のようです。よく見るといろんな切手があしらわれていて、おもしろい。

▼まど・みちお 詩/スズキコージ 絵『おならはえらい』童心社、1990年

『絵本のつくりかた1』(その1)

 以前紹介した『飯野和好と絵本』が含まれている「みづゑのレシピ」シリーズの第一弾。『飯野和好と絵本』と同じく、絵本を自分で作りたい人向けの本です。

 「おりがみ絵本」や「ポップアップ絵本」、「布絵本」「ものさし絵本」「色紙や包装紙を使った絵本」といった手作り絵本の作り方が説明されています。それぞれ、100%ORANGEさん、あだちなみさんといった絵本作家の方々、わたなべいくこさん、立本倫子さん、アトリエ・グリズーさん、赤崎チカさんといったデザイナーの方々にじっさいに制作してもらい、そのプロセスが具体的に分かるようになっています。

 手作りの造本方法についても写真付きで一つ一つ詳細に説明がありました。さらには、印刷や自費出版に関しても紙幅がさかれています。かなり実践的です。

 絵本作り以外には、絵本作家の方へのインタビューや絵本にまつわる話題がいろいろ載っていました。どれもそれほど分量はありませんでしたが、おもしろかったものを紹介します。

 まず、酒井駒子さんのインタビュー(40~48ページ)。絵本の世界に入ったきっかけが語られています。酒井さんはもともと和物のテキスタイルデザインの仕事をされていて、その後、編集者でトムズボックスを主宰する土井章史さんと編集者兼デザイナーの小野明さんによる絵本のワークショップ「あとさき塾」に通ったのだそうです。

 以前紹介した『ロンパーちゃんとふうせん』や『赤い蝋燭と人魚』の鉛筆描きのダミーも写真が掲載されていました。最初、「ロンパーちゃん」は人間の子どもではなくヒツジだったそうです。上記の2冊も含めて、それぞれの絵本の着想や背景が語られていて、なかなか興味深いです。

 それから、巻末には絵本作家15人へのアンケートがありました(108~111ページ)。質問は、「Q1 これまでつくった絵本のなかで、ベストワンをあげるとしたら?」「Q2 絵本作家になるための資質とは、どんなものだと思いますか? 作家になるための勉強とは? 絵本作家を志す人へのアドバイスをお願いします。」の2つ。

 個性的な回答が寄せられており、おもしろいです。とくにQ2に対するスズキコージさんの回答は、まさにスズキコージさんならではのものと思います。引用します。

A2 迫力ある生活をする事
(109ページ)

 妙に納得できます(笑)。

 その他、武井武雄さんの刊本作品の紹介や、荒井良二さんと竹内通雅さんが即興で共作した巨大絵本(見開きで約2メートル四方!)のレポートなども、興味深かったです。

 ただ、残念なことに、この本は季刊『みづゑ』の記事の再録が多く、どれもそれほど分量がありません。もう少し詳しく知りたいなあと思いました。

▼みづゑ編集部 編『みづゑのレシピ 絵本のつくりかた1 あこがれのクリエイターとつくるはじめての物語』美術出版社、2003年、定価 1,995円

スズキコージ『きゅうりさん あぶないよ』

 てくてく歩いていく「きゅうりさん」、クマやシカ、ハリネズミにヤマネコにウシ、イヌにニワトリにカラスにヤギと、いろんな動物から声をかけられます。

きゅうりさん
そっちへいったら あぶないよ
ねずみがでるから

 ところが「きょうりさん」はぜんぜん気にしません。声をかけた動物たちからあれこれものをもらって、どんどん歩いていきます。クマからは帽子、シカからは角と手袋、ハリネズミからはベルトとハリ、ヤマネコからはリュックといった具合で、だんだんすごい格好になっていきます。

 そして、ついに「ねずみ」に出会うのですが、「あぶない」のは「ねずみ」の方なんですね。「きゅうりさん」に出会うと「ねずみ」は「あぶない!!」と大声を上げます。逃げる「ねずみ」を「きゅうりさん」が追いかけているところがラスト。

 この絵本、なんとも不思議なストーリーで、あれこれ謎があって、想像力が刺激されます。

 たとえば「きゅうりさん」は動物たちからいろんなものをもらうのですが、これは本当にもらったんだろうか、それとも奪ったんだろうか? というのも、もらうのは、モノだけでなく、シカの角とかハリネズミのハリとかヤギの髭もあるんです。実は「きゅうりさん」、あんなにやさしそうな顔をしていてとても乱暴だったりとか……

 また、一番の不思議は裏表紙。裏表紙には、大きな銅像の「きゅうりさん」を人びとが見上げている様子が描かれています。銅像の台座には「ORYPEU」と彫られているのですが、これは何語なんだろう? 意味は分かりません。本文には動物しか登場しないので、裏表紙にふつうの人間が出てくるのはちょっと謎です。

 そしてまた「きゅうりさん」が銅像になっているのもなんだか意味深です。もしかして「ねずみ」はとっても悪いやつで、それを「きゅうりさん」が退治したってことかなあと思いました。なんといってもこの「ねずみ」、白いスーツに毛皮を着込み、運転手付きのクルマにのっているみたいなのです。うーん、なんかワルっぽいような気がしてきます。

 そんなわけで、この絵本、同じセリフが繰り返され、文章の説明がまったくないのですが、そうだからこそ、いろいろ想像して楽しめます。

 絵は見開き2ページをいっぱいに使い、どぎつくど派手な色づかい。あやしい雰囲気に満ちています。最初は手足がひょろひょろでやせっぽちの「きゅうりさん」、少しずついろんなモノを身につけ、ページをめくるごとにどんどん姿を変えていくのが、おもしろいです。

 読み聞かせのときは、動物たちの同じセリフを、高い声や低い声、しゃがれ声やくぐもった声など、声音を変えて読んでみたら、うちの子どもは大喜びしていました。同じセリフの繰り返しでも、繰り返しそのものがリズムになっておもしろいし、いろいろ工夫できて楽しめます。

▼スズキコージ『きゅうりさん あぶないよ』福音館書店、1998年

スズキコージ『やまのディスコ』

 「しろうまの みねこさん」と「やぎの さんきちくん」は、新しくオープンした山のディスコに出かけます。みんなで楽しく踊っていると、「ライオンの よしおくん」が蜂に刺されてしまい、そのせいで「ライオンの よしおくんの おとうさん」がクワを振り回して駆け込んできて、ディスコはめちゃくちゃに、といったストーリー。

 この絵本のおもしろいところは、まず登場人物のキャラクターです。

 たとえば「このあたりの やまでは いちばんの おしゃれ」「みねこさん」の登場シーン。体重計にのったまま腰に手を当て、前髪にカーラーを巻いて大きな櫛でお手入れしています。真っ赤なミニスカートのワンピースに、これまた真っ赤なハイヒール、なんだかバブル期の「いけいけのお姉さん」を思い出します。

 みんなディスコははじめてなので、バンドが演奏をはじめても突っ立っていると、「みねこさんは エィッと かけごえを かけて、いちばんに」踊り出します。この踊りがまた、吹っ切れています。

 「さんきちくん」も、おしゃれにきめた帽子のファッションに黒のサングラスをかけ、「みねこさん」を後ろに乗せてオートバイをとばします。ディスコで二人があみ出すのが「うぎやまおどり」。うーん、どんな踊りなんだろう?

 「ライオンの よしおくんの おとうさん」もすさまじい暴れっぷりでど迫力だし、ディスコがめちゃくちゃになってもすぐ次の商売のことを考える「くまのたいしょう」もおかしい。激しく踊り狂う他の動物たちもおもしろいです。

 他にも笑えるディテールがいろいろ。このディスコの入場料は「くりのみ 10こ」で、自慢はなんとハチの巣のミラーボール。しかも、まだハチが住んでいるのです。当然、ミラーボールが回り出すと、ディスコのなかをハチが飛び回ります。みんなは腰をかがめて踊るのですが、そのうち「くまのたいしょう」が網をかぶって出てきて、

「みなさーん、あと、くりのみ 5こを はらえば、
はちよけの あみを かして あげましょう、
さあ、さあ、はりきって まいりましょう」

 うーん、なんて商売にがめついんだ。しかも、みんな網をかぶって踊り続けるのです。バンドマンも手に網をつけてギターやベースを演奏し続けます。いやー、すごすぎ。

 絵は、いうまでもなく、どこを切ってもスズキコージ印。派手でどぎつく、実ににぎやかな色彩です。たとえば裏表紙、なんの変哲もない森の描き方一つとっても、色の選び方、木々の輪郭の付け方、木々の並べ方など、あやしい雰囲気がただよってきます。あと、描かれている動物たちの多くは、目がまん丸になっていて、これも一種、異様な感じを増しています。嫌いな人はとことん嫌いかもしれませんが、あやしさとユーモアが結びついていて、私はとても好きです。

 それから、もう一つ注目されるのが、文に使われているフォント。これがまた、手書き風のあやしい感じのフォントなんですね。正確には分かりませんが、このフォント、スズキコージさんの絵本でしか見かけないような気がします。スズキコージさん御用達のフォントなのかもしれません。

▼スズキコージ『やまのディスコ』架空社、1989年

スズキコージさん関連のウェブサイト

 片山健さんと並んで、うちで人気の絵本作家がスズキコージさんです。とても個性的で強烈な造形と色彩が魅力です。

 本当は今日はそのスズキコージさんの絵本を1冊紹介しようと思っていたのですが、仕事が忙しく、記事が書けません。

 でも、せっかくなので、スズキコージさん関連のウェブサイトを3つ、紹介したいと思います。今後も、いろいろ絵本に関するウェブサイトの紹介リンクをやってみようと考えています。

 まずは、スズキコージさん公認のウェブサイトZUKING。プロフィール、イベントや個展の情報、著作リスト、掲示板、さらにはグッズ(缶バッチ! これ、なかなかよいです)の販売もされています。スズキコージさんのイラストなどもあしらわれていて、要チェックです。

 それから、静岡県、浜北市立図書館スズキコージコーナー。なぜここに?と思ったら、スズキコージさんは浜北市生まれで、2001年に浜北市立図書館に壁画を制作されていました。その壁画の写真も掲載されています。他に、市民のみなさんから寄贈された資料(絵本や児童図書の挿絵、雑誌・カレンダー・パンフレットなど)の一部も見ることができます。じっさいの図書館のなかにもスズキコージコーナーがあるようです。

 そして、復刊ドットコム『スズキコージ』復刊特集ページ。復刊リクエストのあった本がリストアップされています。これをみると、たくさんの本が絶版になっていて、それでも、根強いスズキコージファンの多いことが分かります。スズキコージさんの絵本は、好きな人はだんぜん好きだと思います。『クリスマスプレゼントン』という絵本が復刊が決定しているようです。私は読んだことがないので、ぜひ今度、手に取ってみたいです。

 明日はなんとか絵本の紹介を投稿したいのですが、仕事次第ですね。うーん、ちょっとため息です。