この絵本は、文をジャズ・ピアニストの山下洋輔さんが書いています。山下さんらしくというか、この絵本のおもしろさは、なんといっても、太鼓の響きです。「オニのこ ドン」と「にんげんのこ こうちゃん」が太鼓をたたき合って「けんか」をはじめ、それがだんだんエスカレートしていくというストーリー。このたいこの音が、おもしろい。少し引用してみます。
ドン! ドン!
ドンドコ ドンドン ドン!
ドコンコ ドコンコ ドン!
ドコドコ ドコドコ ドコンコ ドン!
ドカシャバ ドカシャバ ドカドカドカ!
ドンカカ ドンカカ ドカカカドン!
ダダフカ ダダフカ
シャカスク シャカスク
といった感じで、読み聞かせをするときも、リズミカルで楽しめます。巻末の著者紹介によると、山下さんは「佐渡国・鼓童」の方たちとの交流からこの絵本のアイデアが生まれたそうですが、太鼓のいろんなリズムを日本語の響きにうまく表していると思います。
絵は、割と強いタッチの原色中心で、「けんか」でありながら楽しい雰囲気を出しています。オニの世界は赤い山々にあやしい白雲がうずをまいていて、これもおもしろい。
そして、ストーリーの秀逸さもこの絵本の魅力の一つです。「オニのこ ドン」も「にんげんのこ こうちゃん」もいたずらばかりしていて、「でていけ!」と家から追い出されてしまいます。でも、2人が太鼓で「けんか」をはじめると、「こうちゃんに なにを するの」「ドンちゃんに なにを するんだ」と両方のお父さんもお母さんも出てきて、太鼓をたたきはじめます。「こうちゃん」の猫と犬、「ドン」の鶏と牛、オニの世界からも人間の世界からもみんなが集まって、みんなで太鼓をたたき合います。太鼓の響きがどんどん重なり合っていきます。
この太鼓の「けんか」がどんなかたちで終わるか注目です。これは、ぜひぜひ読んでみて下さい。とても、おおらかなハッピーエンドです。人間のけんかも、(ありえないけれども)こんなふうであったらなあと思わずにはいられません。一見したところ乱暴ですが、でも、とてもしゃれた絵本です。
▼山下洋輔/長新太『ドオン!』福音館書店、1995年