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五味太郎『ヘリコプターたち』

 長くひとりぼっちだった緑のヘリコプターがピンクのヘリコプターと出会い、いっしょに旅を続け、そして新しい生命が生まれる、というストーリー。

 この絵本、なによりも色の使い方がとても印象的です。緑とピンクのヘリコプター以外、背景の白をのぞくとほとんど黒や茶色のくすんだ色しか使われていません。ヘリコプターたちが上空を飛んでいく森も海も村も、何もかもが暗くどんよりと描かれ、荒涼とした景色が続きます。森の植物(のように見えるもの)には生命の気配がまったく感じられませんし、人間も含めて動物は一つも登場しません。

 だからと言うべきか、緑とピンクのヘリコプターたちには、それが機械であるにもかかわらず、深く命を感じます。見開き2ページの広い紙面のなかでつねに小さく描かれているヘリコプター、人間のように多くの表情があるわけではないのですが、でも、よくみると微妙な表情や身振りを示しています。病気のときには羽がひしゃげているし、子どもたちの生まれる前のピンクのヘリコプターは少しだけおなかがふくらんでいます。

 そして、子どもたちが生まれる場面、この場面だけ、ずっと白か黒だった背景が朝焼けに黄色く染まります。新しい生命の誕生を祝福するかのような彩色です。

 もう一つ、この絵本では、文章の言葉の選び方と並べ方が特徴的。たとえば、こんな感じ。

ヘリコプターが飛んでいる――飛びつづけている――もう だいぶながいこと――ひとりぼっち

ようやく――めぐりあい――たわいなく――めぐりあわせ

輝く朝の光の中――生まれた――稚い――無数の

 一つの文として完結させるのではなく、言葉のかたまりを横線(――)をはさんでつなげるかたちになっています。しかも、改行はいっさいなく、見開き2ページの紙面のなかほどに横一線に言葉が並びます。これは、飛びつづけるヘリコプターたちの移動と一定の間隔で回り続ける羽根の音と、そして一途さを表しているかのようです。

 最後のページには、次のように書かれています。

おや――あのヘリコプターたち――あれから 何処へ行ったのだろう。

 ここに、はじめて句点(。)が打たれています。出会っていっしょに旅をして新しい生命をはぐくむ、その一連のいとなみを一続きのものとしてこの文が表現しているように思います。

 そしてまた、ここに句点が打たれていること、「あのヘリコプターたちはあれから何処へ行ったのだろう」と記されていること、最後のページには子どものヘリコプターが一台(?)だけ描かれていること、これらから受ける印象は、緑とピンクのヘリコプターたちがもういなくなってしまったんじゃないかということです。この理解、間違っているかもしれません。でも、一つの生命のいとなみがあり、それが次の生命へと引き継がれて終わる、そんな読後感を持ちました。

 奥付の説明によると、この絵本ははじめ1981年にリブロポートで出版されたそうです。その後、1997年になって現在の偕成社からあらためて刊行されたとのことでした。実はこの偕成社版は、もともとのリブロポート版を10%縮小しているそうです。リブロポート版の大きさで読むと、また印象が変わるかもしれませんね。

▼五味太郎『ヘリコプターたち』偕成社、1997年