「だれがみたって みにくい めすのこいぬ」「シンプ」、まちはずれのごみ捨て場に捨てられてしまいます。ネコに追いかけられたり、野犬狩りに捕まったり、たいへんな目に遭いながら、サーカスのテントにたどりつきます。そこで出会ったのが「ピエロのおじさん」。「シンプ」の考えた曲芸でサーカスの人気者になるという物語。
ラストはハッピーエンドなのですが、途中まではいったいどうなるんだろうと少しドキドキしました。とくに「シンプ」が捨てられる画面では、見開き2ページの半分以上にわたって暗く陰鬱なごみ捨て場が描かれ、ページの上部では「おじさん」が「シンプ」をまさに捨てています。めくった次のページは、遠くに消えていく「おじさん」のワゴンを「シンプ」が見つめている画面。
どうして わたしだけ ひとりぼっちで おいていかれるの。どうすればいいんだろ。
なんだか本当に切なくなる描写です。だからと言うべきか、後半のサーカスで「シンプ」が活躍する一連の画面は、本当に楽しい。
絵はかすれたような彩色がとても美しいです。部分的にモノクロでペン描きされているところもあって、それがアクセント。「シンプ」は黒イヌなのですが、みにくいということはなく、とぼけた雰囲気の無表情がよいです。
うちの子どもは、読む前に表紙に描かれている「シンプ」の絵を見て、「このイヌ、何かに似てるねえ。ほら、この前読んだでしょ」と言って、絵本の箱のなかから『コートニー』を取り出していました。なるほど、たしかに目のあたりが似ています。
考えてみれば、『コートニー』は、もらい手のいない老犬があっと驚く大活躍をする物語でした。捨てイヌがサーカスの人気者になる『ずどんと いっぱつ』と共通のモチーフを読みとれるように思います。なんとなく、弱者に対するバーニンガムさんのあたたかい視線が感じられます。
あらためて見ると、とびらの次のページには、黒イヌの写真と「アクトンにささぐ」という献辞が記されていました。この「アクトン」は、もしかしてバーニンガムさんが飼っているイヌかもしれませんね。原書の刊行は1966年。この絵本、おすすめです。
▼ジョン・バーニンガム/渡辺茂男 訳『ずどんと いっぱつ』童話館、1995年