いわば「しつけ絵本」。子どもがやりそうな危ないことを描いた絵本です。とはいえ、「しつけ」とはいっても、あまり説教臭くなく、むしろ、ユーモラス。
冒頭部分を少し引用します。
あぶないことを
しないのは、
いくじなしだ
と 思っている子は、
なにもしらない子。
[中略]
ばかなことして
けがした子。
それが───
まぬけ
このほんは
まぬけだらけ
「いくじなし」という考え方の間違いを最初に伝えているのがすごいなと思います。自分の子ども時代を思い出しても分かるんですが、危ないことをするのがかっこいい、危ないことに加わらないとバカにされる、といったことはよくあると思います。たしかに、友達同士の仲間関係は子どもにとって大事ですが、だからといって、危険なことをすることが偉いんじゃないということ。
そして、これ以降、この絵本では、次から次へといろんな「まぬけ」が登場します。風呂場で熱いお湯を出して火傷する「ふろばまぬけ」、薬の入ったビンなどなんでも開けて口に入れる「くいしんぼうまぬけ」、棒つきキャンデーをくわえて走って転ぶ「ぼうくわえまぬけ」、道に飛び出していく「とびだしまぬけ」、せきやくしゃみをするとき口をおさえない「じぶんかってまぬけ」「ばいきんまぬけ」……といった具合。いやはや、これだけ「まぬけ」が並ぶと壮観です。
基本的に見開き2ページの左ページに文章、右ページに絵というつくり。絵はとてもシンプルで、まるで落書きのよう。子どもたちの様子がユーモラスにのびやかに描かれています。と同時に、見ようによっては、けっこうブラックなニュアンスもありますね。「ひあそびまぬけ」や「おぼれまぬけ」、クルマのドアから出たら走ってきた別のクルマのバンパーに巻き込まれた「ドアちがいまぬけ」などは、ほとんど死んでいます(!)。とはいえ、描写が恐ろしいということはまったくありません。変に脅かしたりせずに、それでも大事なことを伝えていく、そういう描き方なのかなと思います。
また、この絵本はページ数がかなり多いのですが、ユーモラスな絵とともに文章の表現がとても親しみやすく、どんどん読んでいけます。なにせ「~まぬけ」のオンパレード。うちの子どもは「ま・ぬ・け! ま・ぬ・け!」と拍子を付けて歌っていたくらいです。
もちろん、中身は「これは危ないなあ」ということばかりなので、うちの子どもといろいろ話をしながら読んでいきました。うちの子どもは「僕はこんなことはしない!」と言うのも多かったのですが、なかには自分にも当てはまりそうな「まぬけ」もあり、そのときは神妙に聞いていました(^^;)。うちの子どもが何か危ないことをしそうになったら、「ほら、○○まぬけになっちゃうよ!」と言えるかもしれません。
これは絶対にやってはいけないということは、子どもにしっかりと伝える必要があるでしょう。とはいえ、ガミガミ怒るだけでなく(でも怒ることもときには必要)、こういうかたちで、子どもに親しみやすく伝えていくことは大事だなとあらためて考えました。このユーモラスな文章と絵なら、子どもも理解しやすく、また忘れにくいんじゃないでしょうか。
原書"Safty can be Fun"の刊行は1938年。そのため、描かれるクルマはだいぶ古いタイプのもので、うちの子どもは最初、よく分からなかったようでした。とはいえ、クルマの描写以外はすべて、いまでもまったく古びていない内容と思います。この絵本、おすすめです。
▼マンロー・リーフ/渡辺茂男 訳『おっと あぶない』フェリシモ、2003年