「ディック・ブルーナ」タグアーカイブ

講談社がコンビニで絵本を販売

 8月23日付け、NIKKEI NET:企業 ニュースの記事、講談社、コンビニで絵本販売・独自商品も出版

 講談社が、今年中に大手コンビニ約7000店に専用の棚を設置し、絵本の販売を強化するそうです。常時24作品を用意し、独自商品も出版するとのこと。すごいですね。

 今回の計画の背景について、記事では、中小書店の減少に対する新たな販路の開拓を挙げています。しかし、中小書店が減っていることはだいぶ以前からの傾向でしょうし、なんとなくですが、他にも理由がある気がします。

 一つは、出版社側の事情のみならず、コンビニ側にも絵本販売への積極姿勢があるのではないかという点。地域のコンビニ出店が飽和状態にあり、コンビニ業界の成長が鈍化していることは、以前から新聞でも報道されていたと思います。そのため、これまでとは違った戦略が試みられている気がします。

 たとえば、8月22日付けの北國新聞の記事、金大にカフェ風店舗 サークルKサンクス 石川に個性派コンビニ続々 ローソンは緑地併設店にあるように、従来はあまり見られなかったような場所に出店したり、店舗の設計を変えたりすることもその一例でしょう。

 同様に、7月2日付けのNIKKEI NET:企業 ニュースの記事、ローソン、高齢者向けにコンビニ改装・全体の2割に、7月1日付けの神戸新聞の記事、高齢者向けのコンビニ開店 淡路市内にあるように、高齢者という従来はコンビニの中心的な顧客ではなかった世代にターゲットを拡大する試みも行われているようです。

 こういった店舗戦略の流れのなかに今回の絵本販売も入ってくる気がするのですが、どうでしょう。

 実際、「高齢者向けコンビニ」を計画しているローソンは、その一方では、現在、ハッピー子育てプロジェクトを推進しています。その趣旨は、子育てを応援するコンビニ、コンビニを子育て中の母親のコミュニケーションの場にすることとされています。子どもや子育て中の母親が使いやすい店舗の立地やレイアウト、「思わず来店したくなるサービス」や商品の開発が目指されています。計画では、「高齢者向けコンビニ」と同様に(?)、モデル店で検証をおこない、多店舗展開を目指すようです。

 このコンセプトからすると、絵本の販売は、まさにぴったり趣旨に合いますよね。絵本の販売は、コンビニにとっても、新しい顧客を開拓するうえでポイントが高いのではないかなと思います。

 そういえば、ローソンの「ハッピー子育てプロジェクト」のキャラクターは、ミッフィー。ミッフィーの絵本といえば、講談社ですよね。ただの偶然ではないと思うのですが、ちょっと考えすぎでしょうか。

 でもまあ、ローソンでミッフィーの絵本を買えるのは、それはそれでよいかなと思います。ただし、上述の講談社の絵本販売の記事によると、販売されるのは、模型やミニカーを付けた絵本とのこと。うーむ。どうせなら、そんなギミックものではなくて、正統な(?)絵本にしてほしいところです。

 しかし、それではコンビニで売れないのかもしれませんね。なんだか絵本が置かれている現状を象徴しているような気もしてきます。

ディック・ブルーナ『うさこちゃん ひこうきにのる』

 ご存知、「うさこちゃん」シリーズの1冊。「うさこちゃん」が「おじさん」の飛行機に乗せてもらうという物語。

 ブルーナさんの絵本は非常にシンプルに見えるがゆえに、逆に、絵本としてのつくりの特徴がよく表れている気がします。この絵本を読んで、3つのことに気がつきました。どれもよく知られていることかもしれませんが、ちょっと記しておきます。

 一つ目は、登場するキャラクターはどれも横顔を決して見せないこと。後ろ姿はあっても、横から見た構図は出てこないです。これは割とよく知られた特徴ですね。

 この絵本では、「うさこちゃん」と「おじさん」が飛行機に乗って飛んでいる様子が描写されていますが、飛行機は横から描かれているのに対し「うさこちゃん」も「おじさん」も進行方向を向いていません。常に読者の方に顔を向けています(表紙からしてそう)。

 奇異な感がないこともないのですが、子どもにとってはこの方が安心できるかもしれないと思いました。画面が統一的で安定するとも言えます。

 二つ目は、ページのめくりの方向と画面上の飛行機の向きの関係です。基本的に飛行機は次のページの方に向かって飛んでいるように描かれています。つまり、飛行機の向きとページの向きが同じなわけです。読者は、ごく自然に「うさこちゃん」や「おじさん」と同化できると言えます。

 ところが、1ページだけ、飛行機の向きが逆になっているところがあります。つまり、以前のページの方を向いて描かれているわけです。それは、「おじさん」が「うさこちゃん」に「そろそろ かえろうか」と言うページ。なるほど、飛行機の向きが逆になるわけです。

 絵本において、ページをめくるという具体的な動作と絵のなかのベクトルとが緊密な関係を結んでいることがよく分かります。

 三つ目は、飛行機のプロペラの描き方。ブルーナさんの絵本では、ほとんどのものの輪郭が割と太い黒で縁取られていると思います。

 ところが、飛行機のプロペラだけは、黒い輪郭線がありません。これは、おそらくはプロペラが終始まわっていることを表しているのだと思います。輪郭線をどう描くかというとても簡素な表現によって、たしかに空を飛ぶ飛行機の振動が伝わってくるように思います。

 こうやって三つ挙げてみると、どれも飛行機の描写に関係していますね。動くもの、しかも相当に速く動くものを描くことは、ブルーナさんの絵本において、かなり特異なのかもしれません。それだけに特徴がよく出るのかなと思いました(間違っているかもしれませんが……)。

 原書“Nijntje Vliegt”の刊行は1970年。

▼ディック・ブルーナ/石井桃子 訳『うさこちゃん ひこうきにのる』福音館書店、1982年、[印刷:精興社、製本:精美堂]