月別アーカイブ: 2005年8月

伴奏付きの読み聞かせ

 asahi.com 8月31日付けの記事、asahi.com : マイタウン秋田 – 朝日新聞地域情報:「グループかぜ」代表谷京子さん読み聞かせ。秋田市で読み聞かせ等の活動をしている「グループかぜ」が取り上げられています。

 おもしろいのは、読み聞かせに伴奏を付けるという取り組み。絵本も紙芝居も絵を見せられる人数には限りがあるため、もっとたくさんの子どもに楽しんでもらおうと始めたのだそうです。物語を語りながら、その場面をイメージした音楽を演奏。「語りと伴奏」がグループのスタイルとのこと。

 なるほどね。絵がなくても、音楽があることで、格段に想像の幅が広がりますね。もしかすると、曲はオリジナルなのかな。

 もう一つ、非常に納得したのが、次のこと。

 「ただ、どの子も歌や読み聞かせが好きとは限らない。そんな子が会場でつらい思いをしないよう気を使う」と谷さん。

 これは、たしかにそうなんですよね。歌が苦手な子どもは結構いると思います。いや、私自身、歌はちょっと苦手です。音楽や歌が付くと、自分が歌っていなくても、なんだか恥ずかしくなります。引いてしまうというか、さめてしまうというか……。

 でも、そこまで配慮するのは、なかなか、すごいことですね。

尾崎秀子さんの「語り」ボランティア

 asahi.com 8月31日付けの記事、asahi.com : マイタウン秋田 – 朝日新聞地域情報:尾崎秀子さん 子どもたちに「語り」。「語り」ボランティアを20年にわたってされている尾崎さんについての記事です。尾崎さんは、農村などに伝わる物語を「おはなし会」などで子どもたちに話されているそうです。「語り」というのは、つまり、絵本などは使わないで、物語を子どもたちに語って聞かせること。

 絵本の読み聞かせとの違いを指摘されているところが興味深い。

長女の通う小学校でプロの「語り」を聴いたのがきっかけ。「絵本を読まれるのとは違い、自分の頭の中で自由に絵を描ける」魅力に感動した。

 なるほどなあ。たしかに、絵本の読み聞かせの場合には、どうしても絵に縛られるところがあると思います。その点で、「語り」は自由に想像できるわけですね。

 と同時に、絵によって逆に想像力がかき立てられるというか、絵があることで逆に想像力が広がり深まることもあるかと思います。

 まあ、どちらがよいというわけではなく、それぞれの特性があると理解すべきでしょうね。

 あと、尾崎さんのお話でおもしろかったのは、農村に伝わる物語には「ムラ社会」特有の教えが色濃く表れているということ。人と同じである方がよい、思ったことを口に出さない方がよい、といったことです。これは、たしかにそうだなあと思います。

 別の角度から言うと、こういう農村に独特の慣習をどう読み替えていくかが、昔話の再話の一つのポイントになるのかもしれません。

ポプラ社が小中学生向け文庫を10月に創刊

 NIKKEI NET の8月30日付けの企業ニュース、NIKKEI NET:企業 ニュース:ポプラ社、10月に小中学生向け文庫を創刊。「ポプラポケット文庫」というシリーズを新しく刊行するそうです。これは、「ポプラ社文庫」の後継という位置づけ。

ポプラ社文庫の表紙デザインが「今の小中学生には幼すぎる」(ポプラ社)ことから、大人が持っても違和感のないデザインにする。

 なるほどねえ。うーん、つまり、小中学生だけでなく、大人もターゲットに入っていると理解してよいようです。福音館書店が数年前に福音館文庫を始めましたが、これと同じ路線かなと思います。福音館文庫のサイトは、福音館書店|福音館文庫。左記のサイトにも、子どもだけでなく、「子どもの心をもったすべての人々」を対象していることが記されていました。たしか、福音館文庫が創刊されたときの宣伝のパンフレットも、明らかに大人(とくに若い女性)向きになっていました。

 少しうがった見方かもしれませんが、少子化を考えると、これまで以上に対象者を広げていく必要性が高まっていると言えるかもしれません。また、近年の絵本ブームや児童文学の再評価も、この傾向を後押ししていると思います。出版社にとっては、自社の歴史的蓄積を再活用できるメリットもあるでしょうね。

 ポプラ社のサイトは、ポプラ社。サイトにまだ案内は載っていないようです。

スズキコージ『おがわのおとを きいていました』

 主人公の女の子、「かなめんちゃん」が裏庭の小川を飛び越えるというお話。この小川、以前飛び越えようとして落っこちてしまったのです。キリギリスや殿様ガエル、フナたちが応援したり、からかったりします。

 小川を飛び越えるのは、大人にとっては、なんてこともないでしょうが、子どもにとっては大変な覚悟がいります。小川を前にした「かなめんちゃん」の様子からは、その緊張が伝わってきます。大きく息を吸って、気持ちを高めて、ついにジャンプ! このあとのページが一種のフェイントになっていて、おもしろい。そして、喜びと安堵を表しているタイトルも、印象的です。

 絵は、スズキコージさんらしい荒々しい筆致。全体にわたって明るい緑が彩色されています。草木はもちろん、小川も緑。

 冒頭の文に記されているのですが、物語の舞台は「はるか はるか きたの くに」。明るい緑は、北国の短い夏、しかし燃え立つような夏を表しているのかもしれません。

▼スズキコージ『おがわのおとを きいていました』学習研究社、2005年(初出:月刊保育絵本<おはなしプーカ>2003年8月号『おがわのおとを きいていました』)、[編集人:遠田潔、企画編集:木村真・宮崎励・井出香代、編集:トムズボックス、印刷所:図書印刷株式会社]

青森市がブックスタート事業をスタート

 陸奥新報、8月30日付けの記事、陸奥新報WWW-NEWS:絵本楽しみ親子で触れ合い 青森市が子育て事業。青森市で、今年度、4歳児検診時に絵本を手渡す「ブックスタート事業」を始めたそうです。4歳児検診のときに渡すので、実質的には4月以降に生まれた赤ちゃんが4ヶ月になる8月にスタートとのこと。

 ただ絵本を手渡すだけでなく、赤ちゃんとの向き合いを伝えたり、図書館が赤ちゃんの名前で図書カードを発行したりしているそうです。写真が掲載されていましたが、絵本のほかにお薦めブックリストや子育て相談窓口情報を載せたパンフレットが入った「ブックスタート・パック」というセットを渡しているんですね。これは、いろいろ役立ちそうです。

 保健所だけでなく、図書館や読み聞かせのボランティアグループも連繋しているのは、とても充実していて良いんじゃないかと思います。横のネットワークがあるのは、子育て支援という意味でも大事なポイントかもしれません。

 ブックスタートについては、特定非営利活動法人ブックスタートが、活発に活動していますね。ウェブサイトは、特定非営利活動法人 ブックスタート。サイトの説明によると、2005年3月31日時点で、全国653の自治体でブックスタートが実施されているそうです。全国の市町村数は2544なので、約4分の1の市町村が実施していることになります。すごいですね。

 青森市の「ブックスタート・パック」も、この特定非営利活動法人ブックスタートのものを活用しているようです。ブックスタート・パックに紹介がありました。

あべ弘士『えほんねぶた』

 あべ弘士さんによる「絵本ねぶた」制作の様子を撮影した写真絵本。「絵本ねぶた」は、弘前市の金剛山最勝院というお寺で絵が描かれ、青森で組み立てられ、青森ねぶた祭の「市民ねぶた」の前ねぶたとして運行されたそうです。あべさんが作られたのは、一般に青森ねぶたとして知られる立体の組ねぶたではなく、弘前ねぷたと同じ平面の扇ねぶた。

 この絵本では、制作のプロセスが一つ一つ写真で紹介されているのですが、和紙や墨汁、絵の具、筆といった画材や「ねぶた絵」作りの技法、組み立て方などが詳しく説明されており、興味深いです。なかでもロウソクのロウを使って描くのが、おもしろい。明るく透明感が出るとともに、絵の輪郭として独特の効果があるんですね。

 和紙は横3.6メートル、縦2.4メートルの巨大なもの。表側の絵(鏡絵)と裏側の絵(見送り絵)の2枚で、たくさんの動物が描かれていきます。カラフルで楽しい雰囲気です。そして、中央に大きく描かれるのは、あべさんが絵を担当した絵本、『トラのナガシッポ』のトラと、ご存じ『わにのスワニー』のワニがモチーフ。

 和紙の上に直接ひざをついて絵筆で少しずつ彩色していくあべさんの姿からは、緊張感がありながらも楽しそうな現場の雰囲気が伝わってきます。とくに、お寺の本堂におかれた和紙に最初の筆を下ろした写真が、とても美しい。大きな真っ白い和紙が広げられ、その一部にたっぷりの墨でアザラシの輪郭を描くあべさん。これからワクワクするような楽しいことが始まる……そんな期待に満ちた画面です。

 もちろん、完成した「絵本ねぶた」がまちを練り歩く写真もあります。たくさんの写真がコラージュされているのですが、ねぶたそのものではなく、祭りに参加している人たち、「はねと」が中心。激しくはじける(?)あべさんも写っています。子どもたちの写真もいっぱい。威勢のいいお囃子やかけ声が聞こえてくるようで、祭りのエネルギーと活気に満ちています。

 もう一つ印象的なのは、冒頭と巻末の絵のページ。ここの4ページないし3ページのみ、あべさんが絵を描いており、真ん中すべてが写真なんですね。最初のページでは、あべさんのルーツと「ねぶた」との関わりが語られ、最後の3ページには祭りの終わりが描かれています。ゆく夏を惜しむような切なさのある絵、そして、めくったラストページは、もう秋。東北の激しく短い夏が去っていったことを実感できます。この絵本は、「ねぶた」とともにあった一夏のドキュメントなんですね。

 ところで、今回の「ねぶた」制作については、2004年6月9日付けの東奥日報に関連記事が載っています。Web東奥・ニュース20040609_13:あべ弘士さんが絵本ねぶた制作です。記事によると、あべさんは2年連続で「絵本ねぶた」を制作されたそうです。

▼あべ弘士『えほんねぶた』講談社、2005年、[ブックデザイン:沢田としき、撮影:恩田亮一・柏原力・編集部、印刷所:株式会社精興社、製本所:大村製本株式会社]

二宮由紀子/あべ弘士『くまくん』

 逆立ちをした「くまくん」、「自分は今さかさまだから、もしかして”くま”じゃなくて”まく”なんじゃないか」と考えました。いろんな動物たちも、「くまくん」(「まくくん」?)のマネをして逆立ちし、名前が逆さまになっていくというお話。

 いやー、なんとも、ナンセンスな展開。「くまくん」以外はみんな、元の名前がいいや、となるんですが、逆立ちした名前とそれがよくない理由は、読んでいてへなへなと脱力してくる感じです。一種の言葉遊びですが、名前が逆さまになるだけで、ずいぶんイメージが変わるんですね。その横滑りぶりが、とてもおかしい。予想通りと言うべきか、「かばくん」も登場していました。

 ラストのオチも、ユニーク。また別の言葉遊びが始まりそうです。

 考えてみれば、こういう言葉遊びは、子どもにとって、なじみ深いかもしれません。あだ名もその一つかなと思います。大人になると、名前をいじるのは失礼という社会常識が邪魔しますが、子どもにとっては、とても身近な遊び。その楽しさがこの絵本には表されていると思います。

 絵は、白い画面に動物だけが描かれており、森や草原といったような背景描写は一切ありません。でも、この画面のシンプルさは、言葉遊びというモチーフによく合っていると思いました。名前を逆に読むのは、とても抽象的な操作なんですね。逆立ちも、上を下に、下を上にというごく単純なアクション。だから、余計な装飾をそぎおとした画面が、しっくりくるように感じます。

 あと、ページのめくりのリズムも印象的です。「くまくん」と動物たちとのやりとりがあり、そしてページをめくると逆立ちしているのです。めくったときのインパクトが効いています。

▼二宮由紀子 作/あべ弘士 絵『くまくん』ひかりのくに、2004年、[印刷所:図書印刷株式会社]

安野光雅の世界展 広島市 福屋八丁堀本店

 中国新聞、8月4日付けの記事、中国新聞・地域ニュース:絵本の世界 広島で安野光雅展。広島市中区の百貨店、福屋八丁堀本店で、安野光雅さんの絵本原画展「安野光雅の世界展」が開催されているそうです。会期は8月16日まで。

 これは、アンデルセン生誕二百年にちなんだ企画で、津和野町立安野光雅美術館の所蔵作品から百点を展示しているとのこと。デビュー作の『ふしぎなえ』から昨年刊行された『旅の絵本Ⅵ』まで出品されているそうです。

 福屋というのは広島では老舗の百貨店のようですね。インターネットショッピングのサイトは福屋 – インターネットショッピング福屋八丁堀本店催しご案内に今回の原画展の情報も載っています。

 それから、島根県の津和野町立安野光雅美術館のサイトは安野光雅美術館安野光雅美術館 行事予定の「館外展のお知らせ」のところを見ると、広島以外でも、夏から秋にかけて数カ所で原画展が開催されるようです。

 それはともかく、今回の記事ではじめて知ったのですが、安野さんは80歳なんですね。そんなに高齢だとは思っていませんでした。活発に作品を発表されていますし、年齢を知って少しびっくりしました。

第11回紙芝居サミット 青少年宇宙科学館

 埼玉新聞、8月2日付けの記事、実演発表通じ交流 200人集い紙芝居サミット 浦和区。7月30、31日の二日間、さいたま市浦和区駒場の青少年宇宙科学館で、「第11回紙芝居サミット」が開催されたそうです。紙芝居グループ、朗読ボランティア、児童教育・福祉関係者が集まり、内容は講演や紙芝居の実演発表など。

 韓国やインドネシアから参加された方もいたそうです。韓国の蔡京希さんは、女子大学の日本語教育の一環として学生に紙芝居を教えているとのこと。「韓国にはない日本の素敵な文化」との言葉が引用されていました。

 なるほどなあ。どこかで読んだことがありますが、紙芝居は日本独自の文化だそうです。日本国内ではだいぶ衰退してきたと言えるでしょうが、むしろ、海外では注目されつつあるのかもしれませんね。

紙芝居の伝承と発展 駒ヶ根高原美術館

 長野日報、8月2日付けの記事、長野日報 (Nagano Nippo Web) – ニュース – 童謡の世界を絵に 駒ケ根高原美術館。長野県駒ヶ根市の駒ヶ根高原美術館で、学校の美術部に所属する中学生を対象に、童謡や小説をモチーフにした紙芝居制作が行われたそうです。約50人が参加。

 地元の女性合唱団が「春よ来い」「七つの子」「ふるさと」など十数曲を歌い、これを聴きイメージをふくらませて、9つの班に分かれ共同制作。聴いたばかりの童謡を1曲選び、歌詞の1番や2番や段落ごとに1枚の絵を描いて、それを紙芝居にまとめたそうです。

 これ、非常におもしろいワークショップですね。どんな紙芝居になるのかな。ストーリーも抽象化されたかなりユニークな作品が出来上がるのではないでしょうか。また、出来上がった紙芝居を上演するのも、楽しいかもしれませんね。モチーフに使った童謡を流しながら、あるいは合唱付きの紙芝居になるかも。

 この催しでは、さらに、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』や『杜子春』の紙芝居作りも行うそうです。こちらもおもしろい。一見、紙芝居のモチーフにはなりにくいものであるがゆえに、独創的な作品が出来るのかもしれませんね。

 駒ヶ根高原美術館のサイトは、駒ヶ根高原美術館。今回の催しは、駒ヶ根高原美術館「NPOホットコミュニティーサポート」に情報が掲載されています。NPO法人による事業なんですね。過去にも、なかなか意欲的な事業を幾つもされているようです。