古田足日/田畑精一『おしいれのぼうけん』

 「さくらほいくえん」で恐いものは「押入」。静かにしない子がいると、「みずのせんせい」はその子を押入に入れて戸を閉めてしまうのです。そして、もう一つ恐いのが先生たちの人形劇に登場する「ねずみばあさん」。ある日、昼寝の時間に騒いでいた「あきら」と「さとし」は、「みずのせんせい」に押入に入れられてしまいます。「ごめんなさい」を言わずにがんばる二人は、やがて押入の奥の不思議な世界へと入り込み、「ねずみばあさん」と戦うという物語。

 なにより印象的なのは、「あきら」と「さとし」のぎゅっと握り合った手。この絵本の背と表紙にも描かれているのですが、押入のなかの二人は多くの場面で手をつなぎ、肩を抱き合います。それは、二人の友情と連帯の表れであり、互いを励まし合うきずなです。

 しかも、すごいなと思うのは、握り合った手があつく汗ばんでいること。いや、当たり前といえば当たり前です。でも、手と手によるこの体感的な交流があってこそ、暗い押入のなかで相手がそこにいることをしっかりと確認し、自分を奮い立たせていることがよく伝わってきます。「ねずみばあさん」に対峙した二人にとって、握り合った手のぬくもりと感触以上に確かなものはなかったとすら言えるかもしれません。

 また、「あきら」と「さとし」の人物造形も魅力的。もちろん、分かりやすく単純化されていますが、ストーリーとも密接に関係しています。途中までは「さとし」の方が気丈夫で「あきら」はすぐに弱音を吐きそうになるんですが、それが最後にどうなったか。よくある展開と言えるかもしれませんが、それでも二人が互いに対等にがんばりぬいたことが表れているように思いました。

 絵は、全体を通じてモノクロ。そのなかで、冒険のはじまりと終わりを示す画面だけが鮮やかなカラーです。別の世界に入っていき、そしてまた戻ってきたことが印象的に描かれています。

 あと、一番最初のページと最後のページの対比もおもしろい。絵も文章もまったく対照的。もしかすると「あきら」と「さとし」の冒険は「みずのせんせい」を変え「さくらほいくえん」そのものを変えたと言えるのかもしれません。いや、ちょっと大げさかな(^^;)。

 うちの子どもは、次はどうなるんだろうと、かなり集中して聞いていました。読み終わったあとで聞いてみると、うちの子ども曰く「ぼくの幼稚園にはこんなに騒ぐ子はいない」。えー、ほんとー?(^^;)。あと、どうやら、うちの子どもが通っている幼稚園には押入はないようです。

▼古田足日/田畑精一『おしいれのぼうけん』童心社、1974年

古田足日/田畑精一『おしいれのぼうけん』」への2件のフィードバック

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