タイトルになっている「ヘイスタック」とは、干し草をまとめて山のように高々と積み上げたもののこと。北アメリカの大草原地帯(プレーリー)でかつて当たり前に見られたものだそうです。英語のつづりは、haystack。この絵本は、農家が「ヘイスタック」をどのように作り、1年を通じてどんなふうに用いてきたのかを描いたノンフィクションです。
ほんのこの間のことなんだよ。
干し草をかためる便利な機会ができるまでは、わしらの暮らしておった
大平原(プレーリー)にはな、あっちこっちに、でっかい「ヘイスタック」があったものだ。
この絵本では、まず農家が「ヘイスタック」を作っていく様子が丹念に描写されています。春になり夏になって育ちきった牧場の草は、草刈り鎌をつけたトラクターで刈り取られ、リフトを使って牧場の真ん中にかき集められ、それをさくで囲んで「ヘイスタック」ができあがります。絵をみると、2階建ての家なみに高く、横幅も4,50メートルくらいありそうです。
巨大な干し草の山は、秋から冬にかけて牛たちの餌となります。冬の終わりが近づいて、お腹が大きくなった雌牛たちが別のかこいに移されたら、今度は豚の親子たちの餌。子牛が生まれたら、牛の親子たちも戻ってきて、みんなで分け合います。食べられるだけでなく、暑い日には涼しい影をつくり、冬の冷たい風からは守ってくれ、子豚や子牛の遊び場にもなります。
こうして「家になり、えさになって、山ほどのいのちを育ててくれた」ヘイスタックは、どんどん小さくなり、食べのこしやフンに姿を変え、そして肥料として牧場中にばらまかれます。
そうしてまた、新しい春がきて、すべてがゆっくりとめぐりはじめるんだ。
もう一度、はじめから。
春、夏、秋、冬、そしてまた春という悠々たる時間の流れ、そして自然のゆったりとした営みを実感するラストです。
この絵本は、縦18センチに横29センチとかなりの横長。でも、横長の画面だからこそ、北アメリカの大平原が印象深く描写されています。見渡すかぎりの広大な草原、はるか遠くに見える貨物列車、点在する農家の家並み、地平線の上を流れゆく雲、夜の草原に浮かぶ大きな月や一面の雪景色も非常に美しい。
大自然に抱かれた農民たちの生活もまた引きつけられました。画面のなかではつねに小さく描かれているのですが、よく見ると家族みんなで農業を営んでいる様子がうかがえます。子どもも半分遊びながら手伝っています。「ヘイスタック」の上で一休みして、みんなでのんびり大草原と流れる雲をながめている画面は、ため息が出ます。
思ったのですが、かつての日本の農村地帯でも、おそらくは同じような営みが見られたのではないでしょうか。秋に刈り取った稲藁もまた、「ヘイスタック」と同様、少しも無駄にせずしかも自然のはたらきにそって活用されてきたのではないかと思います。
そんな農家の営みや知恵は、近年あらためて注目され評価されているように感じます。絵本の世界でも、昔の農業や農家の暮らしを描いたものがあると思いますが、どうでしょう。
とはいえ、こういったものはやはり実地にふれることが大事かもしれませんね。
▼文 ボニー・ガイサート/絵 アーサー・ガイサート/訳 久美沙織『ヘイスタック』BL出版、1998年