子どもとの散歩、私は大好きです。子どもと手をつないてゆっくり散歩していると、いろんな「発見」があります。子どもが日ごろ感じていることや考えていることをあらためて聞いたり、いつもは足早に通り過ぎるだけの道も新鮮に感じます。そういえば子どもの手が大きくなったなあ(でもまだ小さいなあ)なんてことも、一つの「発見」です。あるいはまた、まだ通ったことのない道を歩いていくのも、子どもにとっては「冒険」で、自分にとっても楽しいです。
そんな発見と冒険の「さんぽ」を描いたのが、この絵本です。
「とてもいい てんきだね。
もりへ さんぽに いってみよう」
という「おとうさん」の誘いに「ぼく」はキャラメルを持って散歩に出かけます。
「おとうさん、ぼくと さんぽ たのしい?」
「たのしいよ、きょうは もりの むこうまで いってみよう」
二人で手をつないで森を歩いていくと、犬やスカンクや熊が通せんぼしていて、それを「おとうさん」と「ぼく」とで工夫して解決していきます。森を抜けると、そこは海。二人でお昼寝です。
この絵本のおもしろい点は、「おとうさん」と「ぼく」との関係の描写です。
たとえば大きな犬が通せんぼするところでは、「ぼく」は恐くて「おとうさん」のうしろに隠れてズボンにつかまっています。で、「おとうさん」の機転でそこを抜けると、こんな会話。
「おとうさん、いぬ こわくなかった?」
「ううん、ちっとも」
「ぼくも!」
お父さんといっしょで安心していて、でも強がる子どもの気持ちがよく表れているように思います。
それから、熊が大きなホットケーキを焼いて「食べていかないと、この道、通っちゃだめ!」と通せんぼする場面(ここでも「ぼく」は「おとうさん」のズボンをぎゅっとつかんでいます)では、「おとうさん」は自分が食べるつもりで困っていて、「ぼく」がホットケーキが大好きということを知らないのです。自分の子どもの大好物を実は知らないなんてところも、現役のお父さんは実感できるんじゃないかなと思います。
絵は、色鉛筆やクレヨンなどを使い、それもあまり多くを描き込むのではなく、軽いタッチで白味の多い紙面になっています。それがまた、楽しい散歩の雰囲気をよく伝えていると思います。「おとうさん」のりっぱなおひげもユーモラス。
奥付のページには、眠った「ぼく」を「おとうさん」がおんぶして帰っていく様子が背後からモノクロで描かれています。楽しかった散歩の余韻にひたって「おとうさん」におんぶされる「ぼく」とそれを背中に感じてゆっくり歩く「おとうさん」。そして、それは、この絵本の表紙の絵にそのままつながっています。この紙面のつくりもおもしろいと思います。
▼にしかわおさむ『おとうさんとさんぽ』教育画劇、1989年