タグ別アーカイブ: 絵本画家の日記

長 新太『絵本画家の日記2』

 先日の記事に引き続いて、長 新太さんの『絵本画家の日記2』です。絵本ジャーナル『Pee Boo』10号から30号(1992年10月から1998年11月)に掲載されたものを加筆・再構成されたとのこと。

 この本は2003年刊行。『絵本画家の日記』が1994年刊行ですから、ほぼ10年ぶりに続編が公刊されたことになります。『絵本画家の日記』と比べて本の大きさがひとまわり小さくなり、なかの紙質も少し違うようです。カラーページはありません。前作と同じく、1ページに1日ずつ、長さんの手書きの文章とイラストが載っています。

 絵本をめぐる状況へのユーモアあふれる、しかし鋭い舌鋒はこの本でも変わりありません。たとえば

○月○日。ふつうの画家や、イラストレーター、漫画家など、つきあいはあるが、みんな絵本のことはよく知らない。おそらく、絵本を手にしたこともないだろう。彼らの頭にあるのは大昔の絵本だ。「そんな仕事、やめなさいよ」と言うイラストレーターもいる。さみしい1日。

○月○日。生真面目というのも困りものだ。良識派を自認しているから、正々堂々としている。児童書の選択なども、コンクリートで出来たようなものばかりえらぶ。たまに悪口も書きたくなるよ。「ナンセンスに感動がありますか?」なんて詰問する。あるのでゴジャリマスヨーダ。

○月○日。「質はともかく、売れるものをつくるのが、いい編集者ですよ」と、ある編集者が言う。「質はともかく、売れるものを描くのが、いい絵本作家ですよ」と、ある絵本作家が言う。「質なんかわかりません。売れてるものを買うのが、わたしたちです」と、ある母親が言う。

 消費者である私たち自身が問われているような気がします。

 と同時に、前作以上に、長さんの日常や身のまわりの出来事に対する独特のコメント、夢かうつつか分からない不思議な記述もいっぱいあって、とてもおもしろかったです。

 ただ、なんとなく老いや死を意識したところがあり、それもまたユーモアを含んでひょうひょうとしているのですが、少しさみしい気持ちになりました。

▼長 新太『絵本画家の日記2』BL出版、2003年、定価(本体 1,000円+税)

長 新太『絵本画家の日記』

 この本は、絵本画家9人(長さんもその一人)が編集に携わった絵本ジャーナル『Pee Boo』の連載をまとめたもの。日付はどれも「○月○日」と記されていますが、1ページに一日ずつ長新太さんの手書きの文章とイラストがつき絵日記のようになっています。カラーページも8ページくらいあります。

 中身は長新太さんの絵本と同じくユーモアにあふれているのですが、それ以上に、いまの絵本と絵本画家さんのおかれた状況をたいへん鋭く辛辣に語っています。

 まず、絵本編集者との戦い(?)の様子。たとえば、酒に酔った編集者にはこうからまれます。

「チョーさんは、編集者は絵がわからないバカなヤツ、と思ってるでしょ? ええ、ソーデスヨ、ヨーデスヨ。ゲージツなんて、どうでもいいやい! そんな絵本は売れないんだから。カワユーイ、アマーイ、なめたくなるような絵が一番いいのだ! そういったセンセイがたの絵本が売れて、もうかっているから、チョーさんみたいな人の絵本もわが社から出せるのよ。ありがたいと思いなさい。コラッ。こちらにいるセンセイは(注・女の人)売れる絵を描くセンセイですよ。チョーさん、最敬礼しなさい!」

 この文についているイラストでは、チョーさん(長 新太さん)が地面にゴツンと頭をぶつけて「最敬礼」している様子が描かれています。

 『Pee Boo』に、絵本の編集者や営業の人に意見を書いてもらおうとして苦労する様子も語られています。

 そして、絵本と絵本画家の社会的な地位の低さ。たとえば

○月○日。コマーシャルの仕事をしているイラストレーター曰く「はじめて絵本の仕事をしたけど、ギャラがメチャクチャ安いんでおどろいたよ。チョーさん、よくやってるねえー」1枚描けば、たちどころに絵本1冊ぶんのギャラが入るコマーシャルの世界。こちらは、子どものためにグワンバッテイルノダ!などと思うんだけど… なんかさみしい1日。

○月○日。つい最近、若いイラストレーターと、やり合ってしまった。若もの「ボクも、チョコチョコと、絵本をやってみたいんですけど、どっか、紹介してくださいよ」わたし「チョコチョコとはなんだ!」若もの「だって、子どもの本を見ると、チョコチョコもんばかりじゃないですか」わたし「チョコチョコ、チョコチョコと、チョコレートじゃないぞ、バカ!」――子どもの本の絵は、チョコレートみたいに甘く、そして苦いのであります。どこからか哀しい音楽がきこえてくる夕暮れ。

 その一方で、子どもの描いた絵に衝撃を受けたり、なにものにもとらわれず自由に描こうという一徹な姿勢も日記の記述からうかがえました。

 長 新太さんのように日本を代表する絵本画家の方ですら、絵本をとりまく無理解・無関心、孤独と苦悩のなかで格闘されていることが、ユーモアにくるまれながらも、ひしひしと伝わってきます。絵本に関心のある方には、ぜひぜひ一読をおすすめします。

 ただ、とても残念なことに、この本は現在、品切れ中。BL出版のウェブサイトで検索したらそう表示されました。私も図書館から借りて読みました。このあたりにも、絵本をとりまく状況のきびしさが現れているような気がします。昨年(2003年)には『絵本画家の日記2』も刊行されたことですし、この機会に、この『絵本画家の日記』も復刊してほしいところです。

▼長 新太『絵本画家の日記』BL出版、1994年、定価 1,121円
※残念ながらこの本は現在品切れのようです。