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竹内オサム『絵本の表現』

 著者の竹内オサムさんは、奥付の著者紹介によると、マンガ史と児童文化が専門の大学の先生で、『手塚治虫論』や『戦後マンガ50年史』といった著作があります。

 「あとがき」を読むと、大学の幼児教育学科と児童学科の学生に、絵本の読み聞かせを指導したり、紙芝居の実演、さまざまな絵本の紹介などに取り組んでこられたそうです。そうした経験のなかで考えてこられたことが、この本にまとめられています。

 この本のテーマは、絵本の「表現技法」。つまり、どんなふうにして絵本が描かれているのか、その表現のテクニックを考えてみることです。ただし、絵本を描こうとする人へのハウツー本というわけではなく、日頃から絵本に接している人や絵本に関心を持っている人に、「絵本はこんなふうにも読める」という新しい見方を提供したいとのこと。

 具体的に取り上げられている技法は、たとえば、誰の目からどんな位置から描くのか、その視点を画面と場面でどう連続させていくか、表紙と裏表紙をどのように描くか、絵と絵、場面と場面をどうつなげていくか、絵と言葉のコンビネーションの仕方や語り手の置き方、時間の流れをどのように扱うか、などです。

 この本、少々難しくとっつきにくいところもありましたが、日頃あたりまえに接している絵本を違った角度から見直すことができ、なかなかよかったです。100ページくらいのうすい本ですが、多くの絵本を例に挙げて具体的に説明していて、なるほどなあと思ったところがけっこうありました。

 竹内さんも書かれていますが、私たちは通常、完成品としての絵本に接していて、その絵本がどのような行錯誤の結果できあがったのか、あまり意識しません。でも、表現技法に注目してあらためて絵本を見てみると、作家の方々の創意工夫が多少なりとも感じられるような気がします。

 また、竹内さんは、表現技法を分析することの意味について次のように書かれていました。

ただ楽しむのではなく、分析的に見る見方も身につけてほしい。それが絵本に限らずメディアそのものを対象化し、ときには批判的に見る目を養うことに、きっとつながっていくはずなのだ。
[中略]
ものごとには、ふたつの眼で接するのが一番だと、ぼくなどは思う。「理解しつつ愛する」という態度が大切なんだと。冷静に対象のあり方を理解しつつ、その一方で対象を深く愛すること。そのような二重の接し方が、対象と自分との関係をよりよいものにしていくはずだと信じる。(105ページ)

 これはとても納得がいきます。「技法」や「分析」というとなんだか冷たい印象がありますが、まったく逆で、表現の工夫やその「すごみ」が分かると、ますます絵本が魅力的でおもしろくなってくると思います。子どもに読み聞かせをしたり、子どもと絵本について話したりするときも、もっと楽しくなるんじゃないでしょうか。

 あと、細かなところで「へー」と思ったのは、「幼年童話の三種の神器」です。これは竹内さんが考えたというわけではなく一般に言われているみたいですが、「食べ物」「遊び」「動物」の三つが「三種の神器」なのだそうです。これらのうちの一つか二つ、できれば三つ取り上げると、子どもたちは興味を持って物語に引き込まれるという説です。たしかに、これは当たっているかもと思いました。

 この本は、久山社から刊行されている「日本児童文化史叢書」の第32巻。この叢書、他のもおもしろそうなタイトルが幾つかあります。たとえば、加藤理『<めんこ>の文化史』、上地ちづ子『紙芝居の歴史』、福田誠治『子育ての比較文化』、早川たかし『明日の遊び考』、畑中圭一『街角の子ども文化』など。そのうち、機会があったら他の本も読んでみようと思います。

▼竹内オサム『絵本の表現』久山社、2002年、定価(本体 1,553円+税)