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槇ひろし/前川欣三『くいしんぼうのあおむしくん』

 「あおむし」で「くいしんぼう」というと、エリック=カールさんの『はらぺこあおむし』という非常に有名な絵本が思い浮かびます。この槇さんと前川さんの絵本は、『はらぺこあおむし』とはまったく性格が違う、でも間違いなく傑作です。

 ただ、この絵本、おそらく好き嫌いが分かれると思います。一般の絵本のイメージを打ち破った「ブラック」で寓話的なストーリー、黙示録的と言っていいような展開。これまでに私が読んだ絵本のなかで、もっとも印象が強烈だった一冊です。

 主人公の「まさおくん」は、帽子を食べている「そらと おなじいろをした へんなむし」を見つけます。

「わかったぞ。おまえは ぼうしを たべる わるい むしだろう」
「ごめんね。 ぼく……くいしんぼうの あおむしなの」

 この「あおむしくん」は、心底くいしんぼうで、なんでも食べてどんどん大きくなっていきます。しかも、いくら食べても、すぐにおなかがすいてしまいます。町じゅうのゴミを食べても満足できず、はては「まさおくん」の住んでいた町のすべて、パパもママも友達も、建物も緑も、文字通りなにもかも食べてしまいます。

「あのねえ、ぼくが みんな たべちゃったの」
「えっ! ぱぱや ままは どこ?」
「あのう……やっぱり ぼくが たべちゃった。
でも まさおくんだけは たべたなかったよ。
だって ぼくたち ともだちだもんね」
「なんだって! ばか ばか ひどいよう!」
[中略]
「ごめんね、ごめんね。
まさおくんが そんなに かなしむなんて
ぼく しらなかったの」

 旅に出た「あおむしくん」と「まさおくん」ですが、「あおむしくん」は、おなかがすくと本当にダメで、通った町のすべてを食べてしまいます。どんどん食べるからずんずん大きくなり、ずんずん大きくなるからどんどん食べ、あっちの国からこっちの国まで残らず食べてしまいます。そして、

もう なんにも ありません

 夕日に照らされた何にもない大地が地平線まで広がります。雲よりも高く巨大になった「あおむしくん」と豆粒のように小さな「まさおくん」だけがこの地上に残されてしまいます。

 そして、衝撃のラスト。驚天動地とはまさにこのことで、あまりのすごさに腰が抜けそうになります。これは、ぜひ、読んでみて下さい。裏表紙の「あおむしくん」にも注目。さらなる展開が待っています。

 ストーリーは「すごい!」の一言ですが、絵は、むしろユーモラス。何でも食べてしまうとはいっても、おそろしいシーンは全くありません。本当に親しみのある絵で、「あおむしくん」もとてもかわいく描かれています。

 そのかわいい「あおむしくん」がなさけない顔をして「ごめんね、ごめんね」と言いながら、すべてを食べ尽くしてしまう……。うーん、やっぱり、こわいかな。

 とはいえ、これほど強い印象を与える絵本もそうありません。ちょっと大げさですが、ある意味、絵本の表現の可能性を広げていると思います。

 この絵本は、最初、福音館書店の月刊絵本誌『こどものとも』に1975年に掲載されたそうですが、25年後の2000年に「こどものとも傑作集」としてはじめて単行本化されました。25年をへてはじめて単行本になるなんて、実はこの絵本、けっこうファンが多いのかなと思います。

▼槇ひろし 作/前川欣三 画『くいしんぼうのあおむしくん』福音館書店、2000年