冬から春、夏にかけて、イチゴが育っていく様子を描いた絵本。つぼみができ、花がさき、実がなるまで、一つ一つ丹念に描かれていきます。最後は、平山和子さんの他の絵本と同じく、ボールに盛られたたくさんの真っ赤なイチゴと、それを食べる子どもの姿。
この絵本で面白いのは、地の文が会話体になっているところ。黒字の文はラストページに登場する子どもです。そして、赤字の文は、おそらくイチゴそれ自体。二人(?)の会話で、イチゴの生長の様子が語られていきます。
会話は問いかけと応答になっているのですが、とくに黒字の文からは「早くイチゴが実らないかな」という子どもの期待感が表れていて、読んでいるこちらも自然と気持ちが引き込まれます。
そして、この絵本の一番すごいところは、イチゴが実った画面。見開き2ページいっぱいに描かれています。これは必見です。ここ以外のページは、どちらかと言えば淡々とした描写の積み重ねなのですが、ここの2ページは明らかに突出しています。いや、変な感想かもしれませんが、あまりの迫力に、あっけにとられるというか、笑ってしまうというか、そんな感じです。
何がそんなにすごいのか、これはぜひ実物を見てほしいと思います。ある意味、平山さんのモチーフの一つがはっきり表れている気がします。以前、平山和子さんの『くだもの』を取り上げたエントリーで、えほんうるふさんからもらったコメントに、「慈愛の表現」というキーワードがありました。「歓待」と言い換えてもよいかもしれませんが、まさにそれが表現されていると思います。
過剰なまでに相手をもてなすというか、自分のことは棚に上げて相手に尽くすというか、そういう桁外れの慈愛です。それが、イチゴが実った画面の絵と文にいわばあふれ出ていると思いました。それはまた、より一般的に見るなら、子どもに対する愛情の一つの在り方なのかもしれません。いや、すごい絵本です。
▼平山和子『いちご』福音館書店、1984年、[印刷:大日本印刷、製本:多田製本]