世界中で一番強いライオン、「ジオジオ」はお菓子が大好き。ケーキやパイやプリン、柏餅など、甘いものを食べていれば、普通の食事は何もいりません。そんな「ジオジオ」にお菓子を作っているのが、ゾウの「ブーラー」。専属のコックです。
70歳の誕生日を迎えるにあたって、「ジオジオ」は「ブーラー」に特別のケーキを注文します。動物たちは、ケーキの材料を集めるのに大忙し。最初は自分だけで誕生日を祝おうと考えていた「ジオジオ」ですが、それがどうなったか。なんだか気持ちがあたたかくなるようなラストです。
この物語でとくに印象深いのが、「ジオジオ」が夢に見る、5歳のときの誕生日の様子。家族みんなが集まって誕生日をお祝いし、一年に一度だけお母さんが焼いてくれるケーキをみんなで分けて食べます。ろうそくの灯に照らされたみんなの笑顔。そして「おかしは、いくつに きれば いいの?」というお母さんの声。実に幸せな情景です。
小さいころ誕生日に食べたこのケーキの美味しさが、「ジオジオ」が甘いものを好きな理由なんですね。でも、それは、甘いケーキだから美味しいのではなく、みんなで分かち合うからこそ美味しいということ。そのことを「ジオジオ」はずっと忘れていたわけですが、70歳の誕生日を前にしてようやく思い出します。自分が本当に求めていたものが何だったのか、はじめて理解する「ジオジオ」。
家族を亡くし動物たちに恐れられるだけだった孤独な「ジオジオ」が、もう一度、他者とのきずなを取り戻す……。そこには、以前読んだ『ジオジオのかんむり』と共通のモチーフを読み取れます。
また、「ジオジオ」の夢の描写が非常に体感的であるのも興味深いと思います。甘い匂い、ろうそくの灯、口のなかに広がる美味しさ、お母さんの声……。いわば五感のすべてが一つとなって、「ジオジオ」の幸せな記憶を成しているわけです。
なかでも、眠る「ジオジオ」を包み込むケーキの甘い匂い、つまりは嗅覚が記憶を呼び覚ますきっかけになっており、そして、夢から覚めても聞こえてくるお母さんの声、つまり聴覚がその記憶の本質を伝えていると言えるかもしれません。
中谷さんが描く「ジオジオ」は、百獣の王というより、むしろ、おだやかでおしゃれな紳士といった風情。それはこの物語によく合っていると思います。岸田さんの「あとがき」では、物語の背景やモチーフの一端が記されていて、こちらも興味深いです。
うちの子どもは、ニコニコしながら聞いていました。「ジオジオ」が「ブーラー」にお菓子を作ってもらうところでは、「いいなあ」と心底うらやましそう(^^;)。そして、読み終わると一言「おいしい物語だねえ」。うちの子どもにとっては「ジオジオ」の心の動きなどよりも、とにかく好きなお菓子をいつでも食べられることに惹かれたようです。
「ジオジオ」の物語は、どうやらまだ他にもあるようなので、次の機会に読んでみたいと思います。うちの子どもも「また読みたーい」と言っていました。
この絵本(絵童話)、おすすめです。
▼岸田衿子 作/中谷千代子 絵『ジオジオのたんじょうび』あかね書房、1970年