登場するのはワニの家族。「おとうさん」が「ワニぼう」に鯉のぼりを買ってきます。さっそく庭に揚げてみると、青空を気持ちよさそうに泳ぐ鯉のぼり。あんまりうらやましいので、「おとうさん」はなんと「ワニのぼり」(!)をはじめ、「ワニぼう」と「おかあさん」もそれに加わっていくという物語。
この「ワニのぼり」、つまりは、鯉のぼりと同じように、口にひもをつけて、それを柱に結わえ、みずから風に吹かれるわけです。うーむ、これはおもしろい!
もちろん、ワニが風に吹かれて空を泳ぐなんて現実にはありえませんが、なんとも楽しい描写。青い空と白い雲をバックに、緑色のワニが浮かんでいるのです。
また、子どもの「ワニぼう」より先に「おとうさん」がまず「ワニのぼり」になるのも、よい感じです。というか、もしかすると、日々の仕事に疲れたお父さんこそ、鯉のぼりがうらやましく思えてくるのかもしれませんね(^^;)。
ところで、5月の空を泳ぐ気持ちよさをこの絵本では、春風の美味しさという実に印象的なフレーズで表しています。なるほどなー。鯉のぼりが口を開けて泳いでいる様子は、たしかに春風をおなかいっぱい味わっているようにも見えますね。春風のさわやかさ、心地よさを、美味しさという味覚で表現する……。突飛なようでいて、でも、とても実感がわきます。
うちの子どもは、「ワニぼう」たちの「ワニのぼり」にニコニコ。終わりのページで街中の動物たちがそれぞれ「○○のぼり」をしている画面では、指さしながら「あ、ヤギ。こっちはゾウ。ペンギンもいるー! タコのぼりー!」と大受けしていました(^^;)。
▼内田麟太郎 文/高畠純 絵『ワニぼうのこいのぼり』文溪堂、2002年