以前読んだ『マウンテンタウン』と同じく、アメリカの小さなまちをモチーフにしたシリーズの1冊。この絵本で描かれるのは、大陸の草原に開拓された「プレーリータウン(大平原の町)」。
うちの子どもは表紙を見てすぐに『マウンテンタウン』と同じシリーズの絵本だと気が付いたのですが、はじめは「このまちはマウンテンタウンの隣にあるんでしょ」と言ってました。「また青いクルマが描かれているのかあ」なんてことも(^^;)。で、山がまったく見あたらない表紙の絵で少し説明したら、「マウンテンタウン」とは違うことが分かったようです。
そして、本文のとびらのページをめくると一言、「うわあ!」。うちの子どものこの気持ち、私もまったく同感です。遠く地平線まで広大なプレーリーが広がり、青い空を雲が流れていきます。横長の紙面が生かされ、絵本のなかを風が吹き抜けていくかのよう。
少し先にページを進めると、今度はたくさんのトウモロコシの畑が描かれています。ここでうちの子どもは心から「いいなあ」。実はうちの子どもはトウモロコシが大好きなのです(^^;)。
『マウンテンタウン』と同じく、この絵本でも「プレーリータウン」の四季が非常に繊細に描き出されています。夏の日に遠くから雨が近づいてくる様子、夕日に照らされるお祭り、冬のブリザード、月明かりに青く照らされしんしんと冷えわたるまち……。本当にすばらしい銅版画です。
また、紙面には人びとの暮らしとまちの変化が一つ一つ大切に描き込まれています。久美さんのあとがきを読むと、最初読んだときはぜんぜん気が付かなかった描写がたくさんあることが分かりました。学校の校庭の遊び道具や貯水タンクのいたずら書き、子イヌたちの誕生などは、うちの子どもといっしょにあらためて探してみました。これも楽しい趣向です。まさに本文中の下記の文章の通りです。
なんでもいつでも少しずつ変わっていくものです。いくつかの変化は、はっきりと目に見えます。あまり変わったように見えないものもあります。
変わっていかないようで変わっていく人びとの営み、それは紙面のなかでは小さく小さく描かれています。でも、このささやかな営みが本当にいとおしく思えてくる、そんな気がします。自然のなかで、まちに抱かれ、日々を過ごしていくこと、その一瞬、一瞬のかけがえのなさ。
ところで、カバーには訳者の久美沙織さんの次のようなメッセージが記されていました。
鉄道が通るまえ、その地には、たくさんの野生生物やネイティブ・アメリカン(いわゆるインディアン)が暮らしていたはずです。開拓は、ある意味、彼らを追い出すことでした。そのことはけっして忘れてしまってはいけないと思います。
しかし、ここでは、どうか、素朴であたたかな暮らしぶりを味わってください。きっとあなたも安らぎや、懐かしさを覚えるでしょう。
久美さんが記されているとおり、歴史の事実は事実としてはっきりと認識する必要があると思います。とはいえ、その事実によってこの絵本のすばらさが減じられるものでもないと感じます。ささやかであってもかけがえのない人びとの日常、それは普遍的な意味を持っており、そこから逆に歴史の事実の重みもまたはっきりと理解できるように思いました。
原書の刊行は1998年。この絵本、おすすめです。
▼ボニー・ガイサート 文/アーサー・ガイサート 絵/久美沙織 訳『プレーリータウン』BL出版、2000年