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クォン・ジョンセン/チョン・スンガク『あなぐまさんちのはなばたけ』

 強烈なつむじ風がふいた日のこと、あなぐまおばさんはまちの市場まで吹き飛ばされてしまいます。家に帰る途中の学校でみつけたお花畑に、あなぐまおばさんはうっとり。そこで、峠の家でもお花畑を作ろうとします。言われたとおり、あなぐまおじさんが、くわであたりを掘り起こしはじめると、

「あー、おまえさん! それは なでしこよ。ほっちゃ だめ!」
「アイゴー! それは つりがねにんじんよ。ほっちゃ だめ!」

 家のまわりをよく見ると、そこにはいろんな花が咲き乱れていて、そのままお花畑。冬だって白い雪の花が山一面に咲きます。あなぐまおばさんは、日ごろ見落としていた大事なものにあらためて気づくのです。

 このストーリーに加えて、この絵本の魅力は絵の美しさです。使われている黒色はたぶん墨書きだと思うのですが、たとえば力強い山々の稜線など、その躍動感あふれる筆使いは一見の価値ありです。また、墨色以外の彩色も非常にあざやかで魅力的。たとえば、あなぐまおばさんが自分たちの家のまわりの花畑に気づく画面はとても幻想的に描かれています。あるいは、アメリカの画家ポロックを彷彿とさせる画面もあり、アクション・ペインティングと墨書きが融合したかのような独特の美しさです。

 もう一つ注目されるのが、彩色されている紙(?)の質感です。日本でいえば和紙のような感じでしょうか。あたたかで味わい深くまた微妙な色合いで、墨書きによくマッチしています。この紙(?)に水分を含ませてその上で彩色してあるようなところもあり、色のにじみがとても美しいです。

 著者紹介によると、絵を担当したチョン・スンガクさんは、韓国古来の絵画の持つ美しさを取り入れた絵本づくりに力を注いでおられるとのこと。私は韓国の絵画はまったく知らないのですが、この絵本の筆使いや紙面の独特の質感は本当に美しいと思いました。

 原書の刊行は1997年。

▼クォン・ジョンセン 文/チョン・スンガク 絵/ピョン・キジャ 訳『あなぐまさんちのはなばたけ』平凡社、2001年