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スズキコージ『サルビルサ』

 今日は1冊。これは本当にすごい! はじめて読んだときも衝撃を受けたのですが、何回読んでもそのすさまじさに圧倒されます。舞台は砂漠。一匹の獲物(イノシシのような小さな恐竜のような謎の生物)をめぐって、二つの国、二つの軍隊が衝突するという物語(かな?)。
 二つの軍隊の一方は人間で砂漠の遊牧民。もう一方はロボットのような何か人造生物に見えます。人間ではないようなのですが、こちらは定住民。二人の王様(?)がときの声を上げ、軍隊が砂漠を進軍。獲物を間に置いて対峙した両軍は徐々に緊張が高まり、ついに戦いがはじまります。見開き2ページをいっぱいに使った一連の画面はまさにド迫力。
 この戦争がどのように終わるのかが見ものです。赤く焼けた大地と波打つ空、結局、誰が獲物を得たのか? 何となく寓意的なメッセージが感じ取れるように思いました。
 もう一つおもしろいのは、フキダシのかたちで描き込まれているセリフ。短いものばかりなのですが、日本語ではありません。なんとも不思議な音感の言葉です。しかも、二つの国、軍隊の間で語順がまったく正反対。これは、もしかすると両国の考え方が相容れないことを暗示しているのかもしれません。
 それはともかく、戦争のセリフなので読み聞かせといっても、なんだか雄叫びを挙げるような感じ。いや、乱暴といえば乱暴なのですが、なんというか声を発することの原始的な楽しさを体感できるように思います。うちの子どもも、このセリフ、おもしろがっていました。
 あと、裏表紙が注目。まさにペンと剣。ペンを取るスズキコージさんのいわば命がけの闘いを表しているかのようです。この絵本、おすすめです。
▼スズキコージ『サルビルサ』ほるぷ出版、1991年[装丁:平野甲賀、編集:トムズボックス]