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エゴン・マチーセン『あおい目のこねこ』

 これはおもしろい! 青い目をした子ネコがネズミの国を見つけにでかける物語。途中で魚やハリネズミ、5匹のネコに出会いますが、子ネコが青い目をしているため、誰もきちんと相手にしてくれません。それでも、主人公の子ネコはめげたり泣き言を言ったりせず、「なんでもないさ」と実に前向きで楽天的。無理をしているのではなく、自然にそうなっていることが分かります。そして、最後にはついにネズミの国を発見し、また他のネコたちにも認められます。

 子ネコのなにごとにもポジティヴな姿勢はなんだかすがすがしく、またとくに次の言葉が印象に残りました。

ある日、こねこは、「おもしろいことを

してみよう。なんにもなくても、

げんきでいなくちゃいけないもの」と、

おもいました。

元気ではないのに無理して元気になるのではなく、何かおもしろいことをやってみよう、そして元気にやっていこう、ということかなと思います。おもしろいことをして楽しんで、それが元気になる……。いいなあ。なんだか見習いたいくらいです。

 ところで、この絵本では、見開き2ページの左ページに文章、右ページに絵が配置されています。福音館書店の「世界傑作童話シリーズ」の1冊で、絵本というよりは童話なのかもしれません。「1のまき」「2のまき」……と全体で7節の構成。ページ数も比較的多いのですが、文章が短くリズミカルなので、どんどん読んでいけます。

 絵は黒と青と黄の3色のみ。子ネコの目の色の青と他の5匹のネコの目の色の黄色だけが彩色されています。それはまた、子ネコの置かれた特殊な境遇を強調しているかのようです。じっさい「ふつうの、いいねこは、きいろい目だまなんだよ」とか「青い目のねこは、うそがうまいんだろ」とか言われてしまいます。とはいえ、この子ネコ、しぐさと表情がとてもかわいい。これに対して黄色い目の5匹のネコは、最後にはかわいいネコになるのですが、はじめは実にワルそうな表情。

 ちょっと思ったのですが、作者のマチーセンさんはデンマークの方。(正確には分かりませんが)ヨーロッパでは青い目はノーマルなんだろうと思います。とすると、この絵本では、人びとがごくふつうに接している「青い目」を特異なもの、「へんてこなもの」あるいは周りから受け入れられないものとして描くことで、いわば価値の逆転をしているように思いました。それはまた、さまざまな紋切り型が人為的で無根拠で無意味であることを表していると言えるかもしれません。

 あと、この絵本では、描かれている線が非常にシンプル。背景などの描写はほとんど省略されています。たとえば、洞穴や夜の描写は、黒く塗られたなかにネコの目だけが描かれています。あるいは子ネコは大きなイヌの背中につかまり山々を上り下りしてネズミの国にたどり着くのですが、この山々の描写は斜めの線が1本だけ。とはいえ、このシンプルな描写と繰り返される上り下り、そしてページのめくりが、独特のおかしさを生んでおり、うちの子どもはこの場面で大受けしていました。ネズミをたらふく食べた子ネコがまるまると太ったり、ひょろひょろにやせた5匹のネコの描写も、なんだかおかしい。うちの子ども曰く「やせすぎや!」。

 ところで、うちの子どもが気になっていたのが、子ネコの鼻(?)の描き方。ページによって白いままだったり黒く描かれていたりとさまざま。どうして白かったり黒かったりするのか、うちの子どもは不思議がっていました。また、うちの子どもによると、この黒いのは鼻ではなく模様なのではないか、とのこと。うーむ、どうだろうね。

 原書の刊行は1949年。この絵本(絵童話)、おすすめです。

▼エゴン・マチーセン/瀬田貞二 訳『あおい目のこねこ』福音館書店、1965年