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アナリーセ・ルッサルト/ヨゼフ・ウィルコン『月がくれたきんか』

 今日は1冊。貧しくとも誠実なる者(「ミロ」)には未来が開け、富んでいても強欲なる者(「ルド」)には未来は閉じられるという物語。昔話にしばしば登場するモチーフと言えるかもしれません。大きな鏡に映し出された月が「ミロ」には金貨を、「ルド」には闇を与えます。これも昔話によくあると思うのですが、眠り込んだ「ミロ」には奇蹟が起こり、ずっと起きていた「ルド」には何もありません。一度、自分を自分ではなくすること、それは他者に誠実であるときにもそうなるような気がしますが、このことによってはじめて、あり得ないすばらしいことが起きるのかなと思いました。
 それはともかく、この絵本の絵はとても美しい。一番すごいなと思ったのは、銀の牧場に行った「ミロ」が鏡を草の上に置いて眠っている画面。空の上からは白い満月がこうこうと光を放ち、鏡にはその月が映し出されています。月明かりにぼうっと照らし出された草原と林のあちこちから動物たちが顔をのぞかせています。鏡のかたわらで眠り込む「ミロ」。静謐で神々しい画面です。この見開き2ページだけ文章はついていません。逆に「ルド」が不誠実であることを示す画面は、グレーや黒を基調にして不穏な雰囲気をかもし出しています。
 「ミロ」と「ルド」の服装の対比もおもしろいと思いました。「ミロ」はぱりっとしてりっぱ、逆に「ルド」はもっさりとしてくすんだ服装なのです。「ミロ」の方がよっぽど金持ちに見えて、最初どちらが「ミロ」でどちらが「ルド」なのか、分からなくなったほどです。これも物語と密接に関係しているように思いました。
 原書の刊行は1988年。この絵本、おすすめです。
▼アナリーセ・ルッサルト 文/ヨゼフ・ウィルコン 絵/いずみちほこ 訳『月がくれたきんか』セーラー出版、1988年