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奥田継夫/関屋敏隆『はだかんぼうがふたり』

 さむーい冬の日、「一郎」くんと「おとうちゃん」と「おかあちゃん」は近くのお風呂屋さんに行きます。「一郎」くんは「おとうちゃん」といっしょに男湯。お風呂から上がると、外は雪。

「ゆきや おやじ!」
「さむいと おもた。」
「ええ おゆ やったな おとうちゃん。」

 この絵本、地の文章はすべて大阪弁の会話になっていて、なかなかユーモラス。うちの子どもが一番受けていたのは、次のセリフ。

「おやじの チンチン ちょっと おおきめ。」
「みるな ばか。」

 あと、「おとうちゃん」が湯舟のなかでおならをして、

プス プス プス プス プス プス

なんて書いてあるところでも大笑い。ちょっと下ネタ風ですが、でもお風呂屋さんですから、むしろ大らかで楽しくていいんじゃないかなと私は思います。

 「一郎」くんと「おかあちゃん」の次のやりとりも、なかなか味わいがあって、男の子のいるお母さんは実感できるんじゃないでしょうか。

「きょうは どっちへ はいるのん? おとこ? おんな?」
「きまってるやん。おとこ おとこ。」
「おかあちゃん だんだん いらんように なるみたい。」

 絵は主としてモノクロ。うすい色合いの紙か布(?)に刷ったような彩色で、親しみ深くなんだかなつかしさを感じます。表紙は、お風呂屋さんの煙突からもくもくと煙が出ている様子が描かれ、シンプルで印象的。表紙と裏表紙の見返しには、魚屋さんや酒屋さんが並んだ昔ながらの商店街が描かれていて、これもなつかしい雰囲気。

 お風呂屋さんですから、もちろん、子どもからお年寄りまでいろんな裸ん坊が描かれています。割と太い線で描かれ、どことなくユーモラス。そういえば、背中に入れ墨の入ったお兄さんとかも出てきていました。「一郎」くんが遊んで湯舟に潜ったりするところでは、水中のタイルの線を波立たせたりして、おもしろいです。

 湯舟の壁画は当然、富士山。「こんぴら ふねふね おいてに ほかけて しゅら しゅしゅしゅー」なんて歌声も書き込まれ、お風呂から上がったら二人でラムネを飲んでいたり、とても楽しい雰囲気。

 ちょっと不思議なのは、サブタイトル(?)にもなっている「おとなっていいなあ こどもっていいなあ」。本文では大阪弁で「こどもて ええなぁ。どこでも およげて。」「おとなて ええなぁ。けっこん できて。」と書かれているのですが、その次のページは見開き2ページを丸ごと使って、海で存分に泳いで魚をとる「おとうちゃん」さんや、「おとうちゃん」と「おかあちゃん」(?)が純和風の結婚衣装を着て並んでいる様子が描写されています。これが全体のリズムのアクセントになっています。

 たぶん文を担当された奥田さんの文章だと思うのですが、カバーに「風呂屋・考」と題された案内文がありました。少し引用します。

「ふろにいこう」というコトバが消えかかっている。自宅に風呂がつくことによって、風呂に行くのではなく、入いる。「ふろに入いろう」である。
[中略]
お風呂屋さんのいいところをあげれば、キリがない。大きい、広い、ゆったりしている、湯水をそれこそ湯水のごとく使える、人の話が聞ける、人の裸が見られる。それになにより湯あがりのからだに、風が吹くのがいい。

 これを読んで、たしかにお風呂さんのよさには「人の話が聞ける」「人の裸が見られる」ことがあるなあとあらためて思いました。同じ湯舟につかってなんとなく話する、そういったのんびりした付き合いはよいですよね。

 それに、別に変な話ではなく、「人の裸を見られる」のは実は子どもにとってかなり大事なんじゃないかと思います。子どもも大人もお年寄りも、やせた人も太った人も、いろんな人が真っ裸でいっしょにお風呂に入っている、みんなそれぞれ自分の体を持っている、当たり前ですがその厳然とした事実に接する機会は、お風呂屋さん以外ではあまりないでしょう。

 あと、奥田さんの文章によると、この絵本で描かれている湯舟はまわりに腰をかけるところがあり、それは大阪風なのだそうです。東京のお風呂屋さんには腰をかける縁がないとのこと。なるほどなあって感じです。

 ところで、この文章は1979年ごろに書かれたわけですから、もう20年以上たっています。いまでは、昔ながらのお風呂屋さんはほとんど消えかかっているかもしれませんね。私も大学生のころはたまに近くの銭湯に行っていましたが、卒業までにはその銭湯もいつのまにかなくなっていました。

 とはいえ、最近は、たとえば温泉を使ったり、いろいろアミューズメントの設備を整えた銭湯も増えてきているようですね。それは、昔からの銭湯とは違うでしょうが、でも、奥田さんの書かれているお風呂屋さんのよさをある意味で残している気がします。

 ともあれ、この絵本を読んでいると、子どもといっしょにお風呂屋さんや温泉に行きたくなってきます。そのうちまた、うちの子どもと温泉めぐりでもしようかな。

▼奥田継夫 文/関屋敏隆 絵『はだかんぼうがふたり』サンリード、1979年