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ロブ・ルイス『はじめてのふゆ』

 小さな地ネズミの「ヘンリエッタ」。生まれた春にお母さんが死んでしまったので、ひとりぼっちで暮らしています。そんな「ヘンリエッタ」にはじめての冬が訪れるというストーリー。

 ひとりぼっちで、しかもはじめての冬。だから、「ヘンリエッタ」は冬ごもりをどうしたらよいのか知りません。仲間たちが、食べ物を集めておかないといけないことを教えます。そこで、「ヘンリエッタ」は、食べ物置き場を掘り、木の実や草の実を集めるのですが、なにせはじめてなので、なかなかうまくいきません。仲間たちに助けてもらってやっと食べ物が集まるのですが、うれしくてパーティを開いたばかりに全部、食べてしまいます。さあ、いったいどうなるかが物語のオチ。

 あっと驚く結末、と同時に、なんだかとぼけていておかしいです。いや、考えてみれば、このオチは間違っているわけではないんですね。でも、いったいどうなるんだろうと心配したあとに、ヘナヘナと脱力した感じ。

 仲間との友情も描かれているのですが、多くの画面は「ヘンリエッタ」一匹だけが登場します。微妙な表情からは驚きや困惑や喜びがよく伝わってきます。いろいろ困難があっても、めげずに木の実や草の実を集めていて健気。とくに、そのまなざしがよいです。

 絵は、粒子が粗いというか、かすれてざらっとした色合いが美しい。秋から冬にかけての自然の移り変わりが繊細に描かれています。黄色く色づいた森や赤い夕焼けに照らされた畑の様子は非常に鮮やかな彩色。冷たい雨にけむる森や雪が降りはじめた景色もよいです。葉がすべて落ちて細かな枝だけになった木々の描写も、冬の雰囲気をよく伝えていると思いました。

 もう一つ、おもしろいと思ったのが「ヘンリエッタ」が住んでいる穴ぐらのなかの家具調度類。よく見ると、人間の道具がいろんなかたちでアレンジされているんですね。こんなところにこんなものが、といった楽しさがあります。

 ところで、うちの子どもは、これまで、ひらがなをときどき思い出したように覚えていたのですが、今日は表紙のタイトルを自分で読んでいました。分からないところは、ひらがなの表を見て確認。だいぶおもしろかったらしく、本文の一部も、たどたどしいながらも自分で少し読んでいます。うちの子ども曰く「読んでみるとおもしろいねえ」。成長したなあ。

 原書"Henrietta’s First Winter"の刊行は1990年。奥付によると、この絵本は、第1回外国絵本翻訳コンクール最優秀賞受賞作に加筆し出版したものだそうです。

▼ロブ・ルイス/船渡佳子 訳『はじめてのふゆ』ほるぷ出版、1992年、[装幀:小林健三]