「ホネホネさん」は、「ギコギコキーッ」と自転車に乗って動物たちに手紙を配達する郵便屋さん。動物たちはいろんなところに住んでいるので、木に登ったり、土のなかに入ったり、池に潜ったりします。
この絵本では、動物たちに遠くの友達から夏休みのお誘いの手紙が届きます。たとえば「トリオくん」には「カモメちゃん」から「ぼうしじまに行きませんか」、「ニョロコさん」には「ワニオくん」から「ジャングルのおしゃれコンテストに出ようよ」といった具合です。
そして夏休み。「ホネホネさん」には、いろんなところに出かけたみんなから手紙が届きます。そのなかには、ガールフレンドの「ホネコさん」からの手紙も。
ホネホネさんへ
こんどのおやすみに
じてんしゃの、のりかた
おしえてね。わたしも
ホネホネさんみたいに
ギコギコキーッて、のって
みたいな。
ホネコより
これが最後のページ。本を閉じると、裏表紙には「ホネホネさん」がガールフレンドの「ホネコさん」に自転車の乗り方を教えているところが描かれています。いつもの制服(?)とは違って、コウモリの絵柄のついたTシャツを着て、ちょっとおしゃれ(?)。
この絵本で楽しいのは、まずは細部の描写。たとえば「ホネホネさん」は名前のとおりガイコツですが、とても親しげな顔(?)をしていてユーモラス。乗っている自転車の車輪のフォークは蜘蛛の巣みたいだし、サドルもガイコツのかたちになっていて、おもしろいです。
他のキャラクターも、ミシンで洋服を作るヘビの「ニョロコさん」とか読書家の「ナマズさん」など、なかなか個性的。「ナマズさん」の本棚には、『いせき』『メキシコ』『インカ帝国』『ツタンカーメン』『アンデス』なんて本が並んでいて、どうも古代史ファンのようです。で、「ナマズさん」を招待する「アンコウさん」の本棚には、『レオ・レオーニ』『ドリトル先生』『ケストナー』『くまのプーさん』が並んでいて、こちらは絵本や児童書が好きなようです。
夏休みに「ホネホネさん」に届くみんなの手紙も、「ナマズさん」のは俳句が書かれていたり、それぞれ独特のおもしろさ。
また、最初のページには「ホネホネさん」の配達順路が地図のように描かれており、読み聞かせのとき指でなぞったりもできます。「ニョロコさん」が住んでいる「つちのなかアパート」も地面を輪切りにしたような感じで載っていて、うちの子どもは「どこがニョロコさんの部屋かなあ」と探して楽しんでいました。
あと、この絵本、本文は一部を除いてすべて白と黒のモノクロで描かれています。とはいえ、表現が地味ということはまったくなく、楽しい雰囲気がよく伝わってきます。
モノクロでない唯一のページは、夏休みになってみんなが出かけていく場面。モノクロではないとはいっても、青色の一色が加えられているだけ。でも、この青は、夏休みがはじまったことを象徴しているようで、なかなか印象的です。
本の背は赤色、表紙・裏表紙は黄色、表紙のタイトルは青色と緑色と赤色、表紙・裏表紙の見返しは青色、とびらの前のページは黄色と青色といった具合に本文以外でも使われる色が限定され、しかもかなり目立ちます。本文と対比的で、こういう色彩のつくりもおもしろいです。
この本はもともと1998年に福音館書店の月刊絵本誌『こどものとも 年中向き』に掲載され、それが「こどものとも傑作集」としてあらためて単行本化されたそうです。同誌には他にも『ゆきのひのホネホネさん』『はるかぜのホネホネさん』が掲載されているとのこと。こちらもぜひ単行本化してほしいなと思いました。
▼にしむらあつこ『ゆうびんやさんのホネホネさん』福音館書店、2003年