タイトルのとおり、眠っている「とらの とらきち」の夢を描いた絵本。
表紙にはりっぱなトラがすくっと立っているのですが、よくみると宙に浮いています。また、後方には、一見したところ木々のようにみえて実はトラが2匹つかまっているだまし絵があります。
このなんとも不思議な表紙をめくると、次から次へと奇妙な「夢の世界」が広がっていきます。なにせ夢をみているのは人間ならぬトラですから、私たちの想像の限界を軽々と飛び越えていきます。
影が左右逆に映る池、身をまるめてだるまさんに変身したりくるくる回るひもから浮かび出る「とらきち」、地平線に突然あらわれる迷路、向かい合う切り立ったがけのあなからわいてくるたくさんのトラ、果物のようなかご(?)に入って眠るトラ……だまし絵も何カ所かあり、だんだんめまいがしてきます。このイメージの跳躍力が、なによりこの絵本の魅力と思います。
たとえば「とらきち」が夢の世界に出てきたり、だるまさんに変身したり、まるまって果物のようになるところでは、その変化を順々に複数の絵で表しています。だんだんかたちが変わっていって、思いもよらぬものが浮かび上がってくる、そんな様子が鮮やかに描き出されています。しかも、夢ですから、これは時間の変化を表しているのではなく、実は異なる時間のものがいっしょに並んでいるかのようにも思えてきます。
あるいは、終わりの方のページで「とらきち」がリンゴのかたちになるところでは、変身がぐるぐると永遠に続くかのようになっており、もしかして「とらきち」は覚めることのない夢のなかにいるのかなとも思いました。
実はうちの子どもは最初、この絵本あんまりおもしろくないと言っていたのですが、何回か読むうちに「おもしろいよ、ぼくにとっては」なんて言い出すようになりました。
だまし絵に気がついたり、あるいは迷路のところを指でなぞったり、だんだん楽しくなってきたようです。うちの子ども曰く、
夢の外の世界はどこにあるのかあ?
夢じゃなく、ほんとのことだったらいいのねえ。
だって、迷路、ちょっとおもしろいから。
だそうです(笑)。
この絵本、全体を通じて、幻想的なものを割と写実的に描く点がなんとなくサルバドール・ダリを彷彿とさせます。巻末の作者紹介によると、タイガー立石さんはもともと現代美術の作家とのこと。少し引用します。
1963年第15回「読売アンデパンダン」展に大レリーフ作品「共同社会」を発表。1966年“三人の日本人”展(日本画廊・山下菊二、中村宏と)。69年にイタリアのミラノに移り、ヨーロッパ各地で個展を開く。82年帰国。江戸時代から平成までの日本の社会を動かした人びとを描いた連作のほか、新手法のセラミックによる表現を開発し、絵画と彫刻、陶芸を融合した立体作品も制作している。
こうした芸術家としての活動に加えて、絵本もたくさん描かれているようです。そのうち、機会があったら他のもぜひ読んでみたいと思いました。
ちなみに、この絵本は、1984年に月刊絵本誌『こどものとも』に掲載され、その後、1999年になって単行本化されたそうです。
▼タイガー立石『とらのゆめ』福音館書店、1999年