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パク・ジェヒョン『とらとほしがき』

 ううむ、これはすごい! 韓国で語りつがれてきた昔話を元にした絵本。自分はこの世の王であると信じていたトラが、ある日、とんでもなく恐ろしいやつに出会うという物語。

 後書きで訳者の大竹聖美さんが書かれていますが、日本の昔話にもよく似たお話しがあります。もともとはインドの説教説話集『パンチャタントラ』にさかのぼるとのこと。最初のページに作者のパク・ジェヒョンさんの説明が少し記されているのですが、パクさんは、この昔話を小さいころ、おばあちゃんから繰り返し聞いたそうです。

 物語そのものはクラシカルと言えそうですが、とにかく、この絵本のすごさは、絵です。表紙と裏表紙が合わせて1つの絵になっているのですが、実に力強い描写。本文でも、色彩といい造形といい、圧倒的な迫力です。細かなタッチが幾重にも重ねられ、まるで匂い立つかのような濃密な画面が続きます。なんとなくですが、筆が入れられる紙そのものが普通とは違うように感じました。色のノリが独得なのです。これは、ぜひ一度、原画を見てみたいですね。

 作者のパク・ジョヒョンさんの説明によると、この絵本では「韓国の伝統的な美しさを表現するために、絵をかく道具や紙、かき方にもくふうを」されたそうです。民画と呼ばれる韓国の伝統的な絵画の手法が用いられているとのこと。

 これまでに読んできた韓国の絵本を振り返ってみても、絵のすごさが強く印象に残っています。それは、韓国絵画の伝統を生かしたものと言えるのかもしれません。

 絵本の絵におけるこうした伝統との対話は、日本の場合には少し希薄な気がしますが、どうでしょう。私もそんなにいろいろ読んでいるわけではありませんが、たとえば赤羽末吉さんの絵本には、日本の絵画の歴史を生かした部分がかなりあると思います。しかし、現在において、赤羽さんがされていたことを引き継ぐような方は、あまりいらっしゃらない気がします。

 それはともかく、この絵本、迫力があると同時にとてもユーモラス。とくに主人公「とら」の表情がよいです。気持ちの変化が如実に表れていて、可笑しい。なんだかマンガのようと言ったら言い過ぎかな。

 あと、子どもと一緒に読んでいて楽しかったのが「アイゴ」。いろんなニュアンスで出てくるのですが、場面に応じて声音を変えると、なかなか面白いです。表紙カバーの説明によると、「びっくりした気持ちや悲しい気持ち、思わず出てしまう叫びやつぶやきを表す韓国の言葉」とのこと。日本語だと、これに類する言葉はあまりないかもしれませんね。

 原書の刊行は2002年。作者のパクさんはカナダ在住。この絵本はパクさんの初めての絵本で、カナダ総督文学賞の候補作になったそうです。

▼パク・ジェヒョン 再話・絵/大竹聖美 訳『とらとほしがき』光村教育図書、2006年、[装丁:城所潤、印刷所:株式会社精興社、製本所:株式会社ブックアート]