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飯野和好『くろずみ小太郎旅日記 その5 吸血たがめ婆の恐怖の巻』

 「ねぎぼうずのあさたろう」と並んで、飯野和好さんのもう一つの時代劇絵本シリーズが「くろずみ小太郎旅日記」。この絵本は、シリーズ第5作目です。

 主人公は、忍術を修行して一人旅に出ている「くろずみ小太郎」。今回「小太郎」は琵琶湖を訪れます。そこで遭遇するのが「もののけ」の「吸血たがめ婆」。あっと驚く忍術で「小太郎」は「たがめ婆」と対決します。

 うーん、おもしろい! このシリーズも、うちではずっと読んできて、毎回楽しんでいます。「冒険活劇絵本」と銘打たれているのですが、まさにその通り。恐ろしい「もののけ」が登場して「小太郎」と激しい戦いを繰り広げるという、非常にシンプルなストーリー。血湧き肉踊る、大興奮の物語です。

 そして、なにより絵がすごい。見開き2ページをいっぱいに使い、圧倒的な迫力。画面の構図や色遣いなど、ページをめくったときのインパクトの強さは飯野さんならではと思います。今回、うちの子どもは「たがめ婆」が正体を現すシーンに「ウワーッ!」と大受けしていました。

 また、「たがめ婆」との対決で「小太郎」が繰り出す個性あふれる忍術も実におかしい。そんなバカなと、へなへな脱力してしまう感じです。読んでいると絵の迫力にぐいぐいのまれてしまうのですが(^^;)、そもそも設定が妙なんですね。うちの子どもも「くろずみ小太郎は炭だから、血なんかないよ!」と突っ込みを入れていました。しかし、このナンセンス具合が楽しいのです。

 あと、今回は舞台が湖ということもあって、水音の描写がとても印象的。前半の静かでサスペンスフルな展開を際立たせていると思いました。

 ところで、あらためて考えてみると、「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズと「くろずみ小太郎」シリーズは、同じ時代劇絵本とはいっても、かなり対照的。「あさたろう」シリーズは、筋の通ったまっすぐな男の子の物語。清く正しいと言っていいかもしれません。

 これに対し、「小太郎」シリーズは、いわばエログロナンセンス。いや、もちろん子どもが読んでまったく問題ない内容です。でも、ナンセンスはもちろんですが、そこはかとなくグロい部分やセクシュアルな部分が見え隠れしているように思えるのです。

 また、「あさたろう」シリーズでは、人間関係の綾や情緒が割と描き込まれていると思うのですが、「小太郎」シリーズは、そんなものはおかまいなしの活劇に次ぐ活劇。

 この違いは、両者が下敷きにしているものの違いなのかなと思います。つまり、「あさたろう」シリーズは浪曲で、「小太郎」シリーズは講談です。ちょっと単純化しすぎかもしれませんが、従来からの物語りの二つの形式を、その性格をふまえて二つの時代劇絵本シリーズに血肉化したのかなと考えました。

 それはともかく、巻末のあとがきには、今回の絵本を着想した最初のきっかけが語られています。二つのテレビ番組がもとになったとのこと。なかなか興味深い、というか、おもしろいです。

 あと、シリーズ全体を紹介したカードが挟み込まれていたのですが、そこには「小太郎」のキャラクターや発想の背景について飯野さんご自身による説明が載っていました。驚いたことに「小太郎」はなんと17歳(!)なんだそうです。うーむ、そうだったのか! いや、もっと年齢が上と思っていました(^^;)。

 ともあれ、この絵本、もちろん(!)、おすすめです。

▼飯野和好『くろずみ小太郎旅日記 その5 吸血たがめ婆の恐怖の巻』クレヨンハウス、2005年(初出:『月刊クーヨン』2005年1月号 別冊付録)