「う・ん・ち」タグアーカイブ

なかのひろみ/ふくだとよふみ『う・ん・ち』

 タイトルの通り、動物の「うんち」を扱った写真本。たくさんの動物たちのたくさんの「うんち」写真が掲載されています。少し図鑑のような趣もありますが、文章の量はそれほど多くなく、写真絵本と言っていいかと思います。

 この「うんち写真」、圧倒的におもしろく、あっと驚く事実、へぇーと納得の事実が文字通りてんこ盛り。うちの子どもと一緒に大いに楽しみました。いや、子どものみならず大人にとっても実に興味深いです。

 表紙と裏表紙にもあしらわれていますが、動物たちがまさにうんちをしている瞬間の写真もいっぱい。みんな、それぞれのスタイルでふんばっています(^^;)。どことなくおかしみがあり、と同時に、人間も動物も変わりはなく、生きるってやっぱり食べて出すことなんだなあと、厳粛な気持ちにもなってきます。

 カバはプールをうんちで濁らせないと落ち着けないことや、カタツムリのうんちは食べたものによって色が変わること、などなど、うんちについてはじめて知ることが数多くありました。カニ、イソギンチャク、クジラやイルカといった海の生物、カメレオン、ヘビ、トカゲ、クモ、サソリ、ミミズといった生き物のうんち写真もあります。こんなうんちなんだなあと興味深いです。

 うんちそれ自体の接写写真もたくさん。よく見ると、ライオンのうんちには毛繕いでなめた自分の毛がたくさん含まれており、これに対し、ゾウのうんちは草だらけ、パンダのうんちは竹の葉入り。うんちは、それぞれの動物の生態を表していることが分かります。

 うちの子どもは、大きなうんち写真が載っているページに鼻を近づけてにおいをかいでいました(^^;)。うーん、この気持ち、分かります。実は私も念のため、においをかいでみました。だってね、山盛りのうんちのこんなにリアルで大きな写真です。本当に、におってきそうな感じ(^^;)。

 驚きと同時になるほどなあと思ったのは、「『うんち』のつづき?」と題されたページ。子ども動物園が舞台なのですが、ヒツジのうんちをブタが食べ、そのブタのうんちをカメが食べ、そしてカメのうんちは掃除されるという、うんちの物語が写真で描かれています。そのあとの文章を引用します。

しぜんの なかで うんちは
むしや バクテリアに たべられて
つちに なります。
そして つちは きや くさを そだてて
どうぶつを やしない
はなしは つづいていきます。

 ああ、そうなんだなあとあらためて納得。本来うんちは自然のなかを循環し、次に生きるものを育て養っていくわけですね。その一方で、私たちのばあい、水洗トイレに流すだけなので、このうんちの「きずな」が見えにくくなってしまう。アタマでは分かっていても、実感する機会はほとんどないなあと思いました。

 巻末には、本文に登場した動物も出てこない動物も合わせて「うんち図鑑」。数えてみたら全部で87。肉食動物、草食動物、雑食動物を色分けし、それぞれのうんちの写真、うんちの長さや様子、うんちをするときのスタイル、などの説明付き。おもしろいのは、一番ラストに、自分のうんちの写真を貼り付ける欄があるところ(^^;)。

 奥付のページには、構成と文を担当したなかのさんや、写真のふくださんの紹介に加えて、装丁・デザインを担当したまつ本さんの紹介、撮影地、写真協力、謝辞、さらには、表紙や裏表紙を飾っているたくさんのうんちオブジェ(これがまたユニーク!)の制作者・撮影者も記されていました。ここにも楽しい記述がいっぱいです。

 写真のふくださんによると、この『う・ん・ち』は13年間(!)のうんち撮影の集大成だそうです。すごいですね。やはり、これだけの数の動物のうんちシーンを撮影するのは大変な時間と労力がかかっているんですね。奥付のページに記されている撮影地を数えてみると、動物園や水族館など22施設もありました。

 構成・文のなかのさんは「抱腹絶倒の『うんち撮影・取材風景』を伝えられないのがちょっと心残り」とのこと。うーむ、これはおもしろそう。エッセイのかたちで本にまとめると、けっこうよいんじゃないでしょうか。ぜひ読んでみたいです。

 装丁・デザインのまつ本さんの紹介には「今回、品のよいうんちの本をつくるのが特命」と記されていました。パソコンの画面から「におい」がするようになったそうですが(^^;)、「品のよさ」はこの本のすみずみから伝わってきます。

 そして、「うんちオブジェ」の制作はこの本の関係者、その家族や友人の方々。みんなでワイワイやりながら楽しく作っていったんじゃないかなと思います。アットホームな本作り、なんか、いいなあ。

 取材・撮影でお世話になった動物園や水族館への謝辞には次のように記されていました。

動物園や水族館の人たちはいつも親切ですが、うんちの撮影のときは いっそう親切だったような気がします。

 あー、なんだか分かるような気がします。というのは、最近、うちの下の子ども(1歳)が少し便秘ぎみで、食事のあと、うんうん言って涙を流しながらふんばっているんです。実につらそうなんですが、でも、大きなうんちをしたあとのスッキリとした表情が本当にすばらしく、また出てきたでっかいうんちを見ていると、こちらまでうれしく楽しくなってきます。上の子どもも「見せて!見せて!」「大きいねえ」とニッコリしているし、うんち一つで、家族みんな盛り上がっています(^^;)。

 なんだろうな。うんちをするのは、もちろん、そんなにきれいなことではないけれど、でも、それはもともと、うれしく楽しいことなんですね。「子どものうんちだから」ではなく、大人のうんちでも同じと思います。

 私が小学生のころは、とくに男子のばあい、学校でうんちをするとからかわれたりして、それがいやで、うんちをがまんすることがありました。どうやら今もそんな雰囲気があるようです。でも、うんちをするのは、汚いとか恥ずかしいではなく、楽しくうれしいこと。それが浸透するなら、うんち一つではありますが、学校の雰囲気全体もだいぶ変わるような気がします。この本を読んで、そんなことも考えました。

 もともとこの本は、福音館書店の月刊誌『おおきなポケット』2001年10月号に掲載された「フンフンうんち図鑑」を追加取材し大幅に増ページしてまとめたものだそうです。この写真絵本、強力に(!)おすすめです。

▼なかのひろみ 文/ふくだとよふみ 写真『う・ん・ち』福音館書店、2003年、[装丁・デザイン:まつ本よしこ]