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『SKYWARD』のきたむらさとしさん関連記事

 先日(といってもだいぶ以前ですが)JALの飛行機に乗ったとき、機内誌『SKYWARD』の特集記事のなかに、偶然、ロンドン在住の絵本作家、きたむらさとしさんについての記述を見つけました。『SKYWARD』2004年11月号の特集「パブとバスと本の倫敦」です。執筆されているのは、アメリカ文学研究者で翻訳家の柴田元幸さん。

 記事の内容は、柴田さんがロンドン在住の作家や古本屋や古本市、個性的な書店などを訪ねるというもの。おもしろそうな書店が幾つか紹介されています。写真も豊富で、註もあり、一番最後のページには簡単な地図も付いていました。なんだか実際に行ってみたくなります。

 で、その記事のなかで、児童書専門店「ザ・ライオン・アンド・ユニコーン・ブックショップ」と絵本の出版社「アンデルセン・プレス」が取り上げられていました。

 「ザ・ライオン・アンド・ユニコーン・ブックショップ」では、きたむらさとしさんがトレードマークのイラストを描いているそうです。その理由についても少し書かれていました。柴田さんが訪れたときは、ちょうど、きたむらさんが本にサインをしに来ていたとか。

 そして「アンデルセン・プレス」では、社長のクラウス・フルーガーさんに話をうかがっています。「アンデルセン・プレス」は、80年代に当時まだ無名だったきたむらさんを、ハーウィン・オラムさん原作の『ぼくはおこった』の絵に起用した出版社。いわばきたむらさんを発掘したのがクラウス・フルーガーさんということになります。

 フルーガーさんの眉毛はとても太く濃いのですが、なんと、きたむらさんの絵本のなかにこのフルーガーさんをモデルにした紳士がときおり登場するとのこと。きたむらさんの『キョウリュウがほしい』の一部が小さく載っていました。たしかによく似ています。なかなか、おもしろいです。

 きたむらさんを起用したときの経緯や「アンデルセン・プレス」の出版方針についてもごく簡単に触れられていました。なんとくロンドンの絵本文化の一端がほんの少しですが、かいま見えるような気がします。

 今回の特集は全体で13ページとそんなに長くありませんが、本好きな人にはとても興味深いと思います。おすすめです。

ハーウィン・オラム/きたむらさとし『ぼくはおこった』

 絵と訳を担当している、きたむらさとしさんは、1980年代からイギリスで絵本を書かれている方だそうです。絵柄のなかにも、イギリス風のまち並みや二階建てバスが出てきます。

 でも、この絵本のテーマは、イギリスならではというものではまったくなく、どこの国・地域の子どもたちにも共通のものと思います。楽しくテレビの西部劇をみていたアーサーくん、「もうおそいからねなさい」とお母さんに注意され、怒り出します。「どうしてそんなことを言うの? い・や・だ!!!」という子どもの気持ち、これがこの絵本のモチーフです。

 アーサーくんの怒りは、とどまるところを知りません。家のなかはめちゃくちゃになり、まちは海に沈みます。「もう じゅうぶん」と誰が言っても、アーサーくんの怒りは収まりません。果ては、地球にヒビが入って割れてしまい、月も星々も何もかも、こっぱみじんに砕かれてしまいます。

 こうやって書いてみると、ひどく暴力的なように思えるかもしれません。でも、子どもの感情には本当にこういうところがあって、それをこの絵本はとてもうまく表現していると思います。大人がなんだかんだ言っても収まらず、自分のまわりを全部こわしてしまうかのような感情の表れ。

 絵は、そんなに暴力的なものではなく、むしろ、ユーモラスなところがあると思います。「何があっても許さない」と怒りに怒ったアーサーくんのへのじ顔と、まわりの大人たちの困った様子が対比されています。ついには星々まで砕いていくところでは、輪郭をブラして描いたり、ぐにゃりと歪めて描いたりして、これも、おもしろい表現。

 そして、「子どもってほんとにそうだよなあ」と思わずうなずくのがラスト。すべてを砕いて、火星のかけらに座ったアーサーくん。着替えてベッドにもぐり込みます。そして、

「ぼく どうしてこんなに おこったんだろう」
でも アーサーには
さっぱり おもいだせなかった

▼ハーウィン・オラム/きたむらさとし『ぼくはおこった』評論社、1996年