みんなが寝静まったある夜、鉛筆たちの相撲大会がおこなわれました。舞台は机の上。ふつうの鉛筆に色鉛筆、ちびたものから長いものまで、みんなで楽しく相撲大会をしていると、突然、ハサミの「チョキチョキきょうだい」が乱入して大暴れ。実は、「チョキチョキきょうだい」はすることなくつまらなかったのです。暴れ回る「チョキチョキきょうだい」を止めた「ちびたやま」はいいことを思いつき、最後は決勝戦とみんなで華やかなパレード。
登場する文具一つ一つがカラフルで楽しい雰囲気。鉛筆たちにはそれぞれしこ名があり、まわしも付けています。鉛筆以外にも、消しゴムやカッター、定規、鉛筆入れのカップなども出てきて、よく見ると、それぞれ個性的に表情豊かに描写されています。電気スタンドの明かりが土俵になっており、その電気スタンドの名前が「しょうのすけさん」。いうまでもなく行司ですね。ちゃんと相撲団扇まで持っているところが、おもしろい。
勝負の画面にはあたかも実況中継のように手書き文字が書き込まれ、読むときも力が入りました。「のこった! のこった!」のかけ声も楽しいです。あと、相撲の勝負はスピードとスリルに満ちていると思うのですが、その点をこの絵本では黒の線描きで表しています。動きの方向や勢い、力の入り具合がうすくかすれた黒で描き込まれていて、アクションの連続が伝わってきます。
うちの子どもがニヤリとしたのは、最後のページの机の描写。最初のとびらのページにも同じ構図でその机が描かれているのですが、机の上の様子が微妙に違っています。つまり、相撲大会の前と後。人間の知らないところで楽しい一夜が明けたわけですね。
▼かとうまふみ『えんぴつのおすもう』偕成社、2004年、[編集:松田素子、デザイン:高橋雅之(タカハシデザイン室)]