てくてく歩いていく「きゅうりさん」、クマやシカ、ハリネズミにヤマネコにウシ、イヌにニワトリにカラスにヤギと、いろんな動物から声をかけられます。
きゅうりさん
そっちへいったら あぶないよ
ねずみがでるから
ところが「きょうりさん」はぜんぜん気にしません。声をかけた動物たちからあれこれものをもらって、どんどん歩いていきます。クマからは帽子、シカからは角と手袋、ハリネズミからはベルトとハリ、ヤマネコからはリュックといった具合で、だんだんすごい格好になっていきます。
そして、ついに「ねずみ」に出会うのですが、「あぶない」のは「ねずみ」の方なんですね。「きゅうりさん」に出会うと「ねずみ」は「あぶない!!」と大声を上げます。逃げる「ねずみ」を「きゅうりさん」が追いかけているところがラスト。
この絵本、なんとも不思議なストーリーで、あれこれ謎があって、想像力が刺激されます。
たとえば「きゅうりさん」は動物たちからいろんなものをもらうのですが、これは本当にもらったんだろうか、それとも奪ったんだろうか? というのも、もらうのは、モノだけでなく、シカの角とかハリネズミのハリとかヤギの髭もあるんです。実は「きゅうりさん」、あんなにやさしそうな顔をしていてとても乱暴だったりとか……
また、一番の不思議は裏表紙。裏表紙には、大きな銅像の「きゅうりさん」を人びとが見上げている様子が描かれています。銅像の台座には「ORYPEU」と彫られているのですが、これは何語なんだろう? 意味は分かりません。本文には動物しか登場しないので、裏表紙にふつうの人間が出てくるのはちょっと謎です。
そしてまた「きゅうりさん」が銅像になっているのもなんだか意味深です。もしかして「ねずみ」はとっても悪いやつで、それを「きゅうりさん」が退治したってことかなあと思いました。なんといってもこの「ねずみ」、白いスーツに毛皮を着込み、運転手付きのクルマにのっているみたいなのです。うーん、なんかワルっぽいような気がしてきます。
そんなわけで、この絵本、同じセリフが繰り返され、文章の説明がまったくないのですが、そうだからこそ、いろいろ想像して楽しめます。
絵は見開き2ページをいっぱいに使い、どぎつくど派手な色づかい。あやしい雰囲気に満ちています。最初は手足がひょろひょろでやせっぽちの「きゅうりさん」、少しずついろんなモノを身につけ、ページをめくるごとにどんどん姿を変えていくのが、おもしろいです。
読み聞かせのときは、動物たちの同じセリフを、高い声や低い声、しゃがれ声やくぐもった声など、声音を変えて読んでみたら、うちの子どもは大喜びしていました。同じセリフの繰り返しでも、繰り返しそのものがリズムになっておもしろいし、いろいろ工夫できて楽しめます。
▼スズキコージ『きゅうりさん あぶないよ』福音館書店、1998年