バージニア・リー・バートン『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』

 バージニア・リー・バートンさんの絵本といえば、アメリカ絵本の定番の一つと思います。うちの子どもも大好きです。この『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』はもともと1943年に刊行されたそうですが、まったく古さを感じさせない、おもしろさです。

 「じぇおぽりす」という町の道路管理部で働いているトラクターの「けいてぃー」。ある冬の日、大雪に埋もれた「じぇおぽりす」ではなにもかもがマヒしてしまいます。

だれもかれも、なにもかも、じっとして
いなければなりませんでした。
けれども、そのとき ただひとり……
けいてぃーは うごいていました

 「けいてぃー」は「ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!」と、どんどん雪をかきのけていきます。警察も郵便も電気も水道も病院も消防も飛行場も、雪で困っている人たちみんなを助け、「わたしに ついていらっしゃい」と言って、道をつけていきます。大通りも横町も雪をすっかりかきのけます。

 みんなのためにやるべき仕事を着実にやり抜く「けいてぃー」。たとえば次のように書かれています。

けいてぃーは、はたらくのが すきでした。
むずかしい ちからのある しごとが、
あれば あるほど、けいてぃーは
よろこびました。

 また、飛行場の雪をかきのけるときには、

けいてぃーは、もう、すこし くたびれていました。
けれども しごとを とちゅうで やめたりなんか、
けっしてしません……
やめるものですか。

 こうしたかっこよさには、大人でも、ちょっとあこがれますね。絵本の裏表紙には、雪をかきのけて働く「けいてぃー」の後ろ姿が描かれていて、これも、なかなかよい感じです。

 ところで、この絵本にはストーリーやテーマ以上に楽しい仕掛けがいっぱいあり、そこがまた魅力です。

 最初の数ページでは、ページのまんなかを四角に囲い、「けいてぃー」がいろんなアタッチメントをつけられることが描かれています。そのまわりには働くクルマのたくさんのイラストが付いていて、楽しめます。

 また、「じょえぽりす」全体の地図(建物のイラストつき!)もあり、「けいてぃー」が雪をかきわけていく道をそのつど指でなぞったりもできます。各ページには東西南北の方位も書かれています。終わりの方のページには、「けいてぃー」の大活躍ですっかり雪がかきのけられた「じぇおぽりす」の全体が描かれています。地図と比べてみたりすることもできます。

 そして、「けいてぃー」が雪をかきのけて道をつけていくときの描き方も、注目です。

 まず、雪がどんどん積もっていくことを文章で説明したところ。ここでは、ページのはじをぐるっと四角にとりかこむように何本もの電柱を置き、その電柱がどんどん雪にうずもれていく様子を順々に描くことで、時間の流れを表しています。これも、おもしろい表現です。

 次に、雪の「じぇおぽりす」に「けいてぃー」が最初に現れるシーンでは、2ページを丸ごと使った白い画面の左のはじに割と小さめに「けいてぃー」が描かれています。この大きな白い空間が大雪のすごさを物語っていて、と同時に、この白い画面を左から右へ、上から下へ、また斜めにジグザグに「けいてぃー」が通っていくことでその後に道がどんどん出来ていき、町がよみがえっていきます。「けいてぃー」の通ったあとに家々や建物が並んでいくかのようで、その煙突からは煙が上がり、人びとが雪かきをはじめ、いろんな働くクルマが動き出すのです。この画面の使い方はとても印象的です。

 あと、この本では、とびらの次のページに献辞のようなものがあるのですが、よく見ると、バートンさんの他の絵本の主人公たち(たとえば『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』や『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』)が描かれていました。これも、おもしろいですね。

▼バージニア・リー・バートン/いしい ももこ 訳『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』福音館書店、1978年(新版)

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