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ユージーン・トリビザス/ヘレン・オクセンバリー『3びきのかわいいオオカミ』

 タイトルにも伺える通り、有名な「三匹の子豚」をもとに、これを改変した物語。パロディと言えなくもないですが、それ以上のメッセージが込められていると思います。

 一つ目は、これもタイトルから読み取れますが、ブタとオオカミの立場が完全に逆転していること。

 この絵本に登場する3匹のオオカミは、たいへん可愛く愛らしいです。他の動物たちとも仲良くやっていけますし、クロッケーやテニスといったスポーツもたしなみます。なんだかやさしげな表情で、凶暴さのかけらもありません。これに対して、ブタは実にワル。見るからに凶悪で暴力の限りを尽くします。

 こうした立場の逆転は、それ自体おもしろいものですが、同時に、私たちが慣れ親しんでいるイメージの恣意性ないし人為性を際立たせていると思います。

 二つ目は、ストーリーに独得のひねりが加えられていること。

 まず、オオカミが最初に建てる家は、「三匹の子豚」のように藁の家でも木の家でもありません。最初からレンガの家なのです。そして、このレンガの家をブタは壊してしまい、そのためオオカミはもっと頑丈な家を建てていくわけです。最初からレンガですから、このあとのストーリーは「三匹の子豚」よりももっと激しいものになります。防衛が強固になればなるほど、攻撃と破壊もより激烈になっていきます。

 このストーリー展開は、結果として、暴力の拡大とエスカレート、そのある種の不毛さをより明確に描き出していると思います。

 そして、「三匹の子豚」とはまったく異なる結末。暴力はどんどんひどくなる一方で、いったいどうなるんだろうと思っていたら、なるほどのハッピーエンドです。いや、若干、類型的と言えなくもないですし、理想論すぎると言ってもよいのですが、しかし、興味深いと思いました。

 「いままで まちがった ざいりょうで うちを つくってた」オオカミたちが最後に見つけた材料とは何だったのか。「三匹の子豚」の場合には、相手に合わせてより強固な材料を使い、そうすることで相手に打ち勝つわけですが、この絵本では、いわば逆転の発想で違う答えを見つけています。家を作る材料をモチーフにして別の方向に展開していくさまは、しなやかで軽快、なかなか良いです。

 また、面白いのは、絵もまたストーリーに合わせてどんどん変化しているところ。暴力がエスカレートするにつれて、画面はだんだん荒涼としていきます。色が消え、不毛の大地が広がるわけですが、これが一気に反転してカラフルな色彩に満たされます。物語とよく呼応しているように感じました。

 もう一つ、画面をよく見ると、所々にオオカミたちの大事なモノがさりげなく描き込まれています。これがラストページで生きてくるんですね。「ケンカしてないで、お茶でも飲もうよ!」といったメッセージが聞こえてきそうです。

 あ、上では暴力とか書きましたが、恐いとかいったことはまったくないです。むしろユーモラス。うちの子どももとても面白がっていました。

 原書“The Three Little Wolves and the Big Bad Pig”の刊行は1993年。

▼ユージーン・トリビザス 文/ヘレン・オクセンバリー 絵/こだまともこ 訳『3びきのかわいいオオカミ』冨山房、1994年、[印刷:凸版印刷株式会社、製本:加藤製本株式会社]

マイケル・ローゼン/ヘレン・オクセンバリー『きょうは みんなで クマがりだ』

 お父さん(?)と子どもたち4人にイヌ1匹、みんなで「クマがり」をするお話。草原や川やぬかるみや森や吹雪を通り抜け、海辺の洞穴にたどり着きます。「クマがり」は一応タイトルになっていますし、本文中にも「きょうは みんなで クマがりだ」という文章が繰り返し出てくるのですが、結局、クマを捕まえられたかどうか。なんだかテープを高速で逆回ししているような、おもしろいオチです。

 絵はモノクロとカラーのページが交互に出てきてリズミカル。モノクロのページでは草原や川やぬかるみや森や吹雪を前にして困っている様子が視点を比較的近づけて描かれ、カラーのページではそこをずんずん通り抜けている様子が少し遠くから描写されています。停滞しそしてまた動き出す、そのストップ・アンド・ゴーがモノクロとカラーで表されていて、おもしろい。

 また、困っている画面に付けられた文章も印象的。

うえを こえては いかれない。
したを くぐっても いかれない。
こまったぞ!
とおりぬけるしか ないようだ!

 そうだよなあ、通り抜けるしかないよなあ。上を超えるとか下をくぐるとか、避けることはできないんだなあ、はー。ちょっと考えすぎかもしれませんが、与えられた試練や課題に正面からぶつかることを教えられたような……。

 あと、子どもたちが4人登場し、そのなかには小さな幼児もいます。きょうだいと思いますが、お姉さんやお兄さんが小さい子の面倒を見ている様子も描かれていて、ほほえましい。でも、お母さんは出てこないようです。

 というか、家族(?)が描かれているなら必ず母親が登場しなければならないというのは、一種の思いこみですね。そもそもこの物語は家族でなければならない理由は何もないと思います。

 と思っていたら、他の紹介では、お母さんも登場していることになっていました。うーむ、そうなのかなあ。いや、一番背の高い女の子、母親には見えなかったのですが……。

 あと、この絵本は表紙と裏表紙の見返しも物語の一部。とくに裏表紙の見返し。月明かりに照らされた浜辺をクマが帰っていく様子が描かれています。なんだか後ろ姿がさみしそうです。あるいは、みんなと遊びたかったのか。

 ところで、うちの子どもは、この絵本があまり好きではないようで、読んだあと「あんまりおもしろくない」と言っていました。「僕はクマがりはしない」とも。絵のタッチが好きじゃないのかな。私から見ると標準以上のおもしろさがあると思うのですが、でもまあ、親子の間で価値観が違うのは当たり前ですね。

 原書の刊行は1989年。

▼マイケル・ローゼン 再話/ヘレン・オクセンバリー 絵/山口文生 訳『きょうは みんなで クマがりだ』評論社、1991年