甲斐信枝『たんぽぽ』

 春を迎えて、たんぽぽが成長し花を咲かせ、綿毛が開き、そして風に乗って飛んでいく様子を描いた絵本。

 絵はたいへん写実的。とくに観音開きで4ページ分の横長スペースにに描かれる、綿毛たちのいわば旅立ちの画面や、たくさんの綿毛が飛び散っていく画面は、ハッとするような美しさです。

 そして、この絵本で何よりも印象的なのは、綿毛が飛んでいったあとを描いたラストの5ページ。これには本当に心動かされました。たんぽぽの花や綿毛を取り上げた絵本はたくさんあると思いますが、その後のたんぽぽを正面からきちんと描いた絵本は、あまりないんじゃないかと思います。

 いや、何か派手な画面が現れるわけではありません。色彩という点で言えば、ラスト5ページはとても地味です。しかし、その静かな画面を通じて、命が続いていくことの力強さ、ひたむきさを強く実感できます。

 甲斐信枝さんの「あとがき」も必読です。端正な文章のなかに、たんぽぽという一つの生命に対する甲斐さんの真摯で繊細なまなざしを感じ取れるように思いました。

 ところで、この絵本、一読して私はかなり感銘を受けたのですが、うちの子どもは、あまりお気に召さなかったようでした(^^;)。ちょっと残念。でもまあ、こんなことも、たまには、ありますね。

▼甲斐信枝『たんぽぽ』金の星社、1984年(月刊絵本『しぜんのくに』1972年3月号「たんぽぽ」をあらたに編集し直したもの)。

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