ユリ・シュルヴィッツ『ゆき』

 街にはじめて降った雪を描いた絵本。なにもかもが灰色のまちに、灰色の空から、ひとひらの雪が舞い降りてきます。はじめは地面に落ちるとすぐに消えていた雪ですが、あとからあとから降ってきて、少しずつ積もっていき、最後には街中が真っ白に輝くという物語。
 まず印象的なのは、ひとひら、ひとひらの雪の描写。最初のページでは、横長の紙面を見開きいっぱいに使い、灰色の街が描かれています。そこには物語に登場するほとんどの人物やモノが描き込まれているのですが、右ページの端の方に、本当に小さく小さく一片の雪。くすんだ色合いのなかにあって、その小さな一片だけが真っ白。
 ページをめくるにつれて、雪は、二つ、三つと増えていきますが、全体の真ん中あたりでやっと三片というゆっくりとしたスピード。しかし、そのあとは一気に増え、あたり一面、数え切れないくらいたくさんの雪片が描き込まれていきます。一片の雪がいつの間にかたくさんの雪片に変わっている……。実にダイナミックな描写です。
 そして、はじめは灰色だった街と空も、最後には真っ白の街と澄み切った青空に変わります。まったく別の街になってしまったかのような鮮やかな変化。
 この時間の流れと色彩の変化は、感情の動きと密接に連動しているように思いました。画面に登場する一人の男の子が体全体で、その喜びを表現しています。次から次へと舞い降りてくる雪片のなかで、ニコニコしながら駆け回る男の子。
 これに比して、大人たちは誰もが、つんとすましたまま。雪が積もってくると、体を縮こまらせ下を向いて歩くだけ。しかも、そのうち街からいなくなってしまいます。気持ちも体も、雪と一緒に動くことのできない者は消え去るしかないようです。画面に残るのは男の子と一匹のイヌだけ。
 そして、うちの子どもが「あっ!」と声を上げたのが、”MOTHER GOOSE BOOKS”という本屋さんの壁に据えられていた人形たちがふわりと地面に降り立った画面。男の子の浮き立つような気持ちの高まりが人形たちを呼び寄せたかのよう。みんなで雪のダンスを踊ります。ワクワクしてくるような、非常にエモーショナルな画面です。
 ところで、私は雪国出身なのですが、たしかに雪が降るときはこんなふうだったなと思い出しました。学校や家の窓から外をながめると、最初はどんよりとした曇り空だったのが、はっと気が付くといつの間にかいっぱいの雪になっている。窓にへばりついて上を見上げると、次から次へと雪が降りてくる、まるで果てがないかのように。なんだか空に吸い込まれていくような気持ちになりました。と同時に、「雪ってなんだかごみみたいだな」と小さい頃に思ったことがありました。いやはや、なんともロマンのない子どもでした(^^;)。
 うちの子どもは、日頃あまり雪に接する機会がないため、雪遊びにとてもあこがれています。この絵本の男の子、だいぶ、うらやましいようです。
 原書”SNOW”の刊行は1998年。この絵本、おすすめです。
▼ユリ・シュルヴィッツ/さくまゆみこ 訳『ゆき』あすなろ書房、1998年、[装丁:辻村益朗]

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