平田昌広/井上洋介『かあちゃんのせんたくキック』

 テレビとか家電製品が調子悪くなると、ついつい、バシッとたたいてしまいますよね。テレビならまだしも、フリーズしたパソコンまで「このやろう!」ってたたくことがあります。もちろん、それで直ったことは一度もありませんが……(当たり前!)

 この絵本は、壊れた家電製品をどついて直す「かあちゃん」のお話。洗濯機にテレビに冷蔵庫、壊れた家電製品は「かあちゃん」が技を入れれば元通りに動き出します。

うちの かあちゃんは
どんな おんぼろでも
きあい いっぱつで なおす。

 暴力的と言えなくもありませんが、全体を通じて明るく楽しい雰囲気の絵本です。

 まずおもしろいのは、この「かあちゃん」が見るからに強そうなところ。腕も足も太くて、がっちりと筋肉がついています。これなら、壊れた家電製品がキック一発で直るのも納得できます(笑)。

 「かあちゃん」の繰り出す技がまたすごい。「せんたくキック」「テレビチョップ」「れいぞうこパンチ」「ウルトラじどうはんばいキック」といった感じで、笑えます。

 なかでも、うちの子どもに一番受けていたのが「やぁードライヤヤヤヤー!」。うちの子ども曰く「そのままだねえ」。たぶん、念を込めているのでしょう(笑)。

 キックやチョップのかまえも堂に入っていて、目にも気合いがみなぎっています。宙返りまでしているのもすごい。バシッと技が入ると星(★)が飛び出るのも楽しい描写です。「やややややややー!」と技を繰り出す画面は、なんとく昔のマンガ『北斗の拳』を思い出しました。

 そんな「かあちゃん」を「ぼく」は頼もしげに楽しそうに見ていて、絵の描写からは「かあちゃん」が大好きという様子がよく伝わってきます。

 それから、絵に付けられた文章も魅力的です。簡潔な文をリズムよく重ねていて、しかもユーモラス。「かあちゃん」が技をきめる文では、読み聞かせにも気合いが入りました。

 あと、最後のシーンもなかなか粋です。いろんなものを直して「かあちゃん」と「ぼく」が家に帰ると、「とうちゃん」がおんぼろ洗濯機のように「がぁーがががが」といびきをかいて寝ています。

まずい……
かあちゃんの キックが とびでるぞ。
ぼくは どきどきして
かあちゃんを みた。

 このあとどうなるか、これはぜひ読んでみて下さい。とてもアットホームなラストシーンです。

 ところで、カバーには、文を担当している平田昌広さんの案内文が記されていました。少し引用します。

 子どものころ、家電製品は新しい機能をもって次から次へと現われていました。とはいえ各家庭で次から次へと買い替えるなんてことができるわけもなく、洗濯機がガタガタいっていれば、テレビがザーザー映らなければ、頼もしい母ちゃんがバシッとたたく。と、なぜだか調子がよくなって、まったく不思議なものでした。子どもごころからいえば、それはもちろん新しいテレビが欲しかったりするのですが、母ちゃんのまねをして、たたいたり、ゆすったり、それはそれで楽しい思い出です。

 この絵本、ある意味、家電製品のみならず、いろんなことがシンプルで分かりやすい時代を描いているのかもしれませんね(とはいえこの絵本に出てくる洗濯機は全自動みたいですが)。よく壊れるけれども簡単に直る……人びとも家族もいまよりはずっとおおらかな時代だったのかなと思います。

 そして、家電製品の複雑さが増すとともに、社会も人間も見通しにくくなったような……キックやチョップの一発で何かが調子よくなることはもはやありえません。まあもちろん、時代の移り変わりはそんなに単純じゃないでしょうが、この絵本のおおらかな描写を見ていると、なんとなくそんな気がしてきます。

▼平田昌広 文/井上洋介 絵『かあちゃんのせんたくキック』文化出版局、2003年

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