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ユリー・シュルヴィッツ『よあけ』

 山すその湖に訪れる夜明け。繊細な水彩画のタッチに読み聞かせの声も静かになる、そんな絵本です。

 この絵本の魅力はなによりも、夜明けに至る色と光の美しさです。深く静かな夜の様子、うっすらと夜が明けて風景が少しずつ色づいていく様子が、ゆっくりと描かれていきます。くろぐろとした山々、月に青く照らされた湖面、それらが夜明けが近づきだんだんと色を変えていく。その色と光の変化の静謐さ。

 また、紙面構成も工夫されていると思います。夜明けの移り変わりは、四角いページの真ん中に丸く描き出されます。まわりの紙面は白いまま。そして、ついに湖に朝の光が差しこみ「やまとみずうみがみどりになった」ところだけ、2ページすべての紙面を丸ごと使って描写されます。しかも、その数ページ前から、(たとえば映画でカメラが引いていくかのように)湖のほとりにいるおじいさんと孫や湖の上のボートからだんだんと視点を引いていき、山々と湖が一気に緑に染まる様子を広く遠く見せるのです。この紙面構成と色彩の効果にはため息が出ます。

 夜明けの風景のなかに登場する人間は、おじいさんとその孫の2人だけ。父と子じゃなくて、祖父と孫。この取り合わせがまたよい感じです。少し距離があるけどだから逆に居心地のいい関係かなと思います。その2人が湖のほとりの木の下で夜をすごし、夜明けを前にボートでこぎ出していく。2人の会話はとくになくて、おじいさんは静かな笑みを浮かべています。

 そして、もう一つの魅力が訳文の美しさ。たとえば、

つきが いわにてり、
ときに このはをきらめかす。
やまが くろぐろと しずもる。
うごくものがない。

おーるのおと、しぶき、
みおをひいて……
そのとき
やまとみずうみが みどりになった。

 作者紹介によると、ユリー・シュルヴィッツさんは東洋の文芸・美術に造詣が深く、この絵本のモチーフは唐の詩人柳宗元の詩「漁翁」から取られたのだそうです。この訳文は、
「漁翁」の詩も念頭におきながら作られたんじゃないかなと思います。

 原書の刊行は1974年。

▼ユリー・シュルヴィッツ/瀬田貞二 訳『よあけ』福音館書店、1977年