逆立ちをした「くまくん」、「自分は今さかさまだから、もしかして”くま”じゃなくて”まく”なんじゃないか」と考えました。いろんな動物たちも、「くまくん」(「まくくん」?)のマネをして逆立ちし、名前が逆さまになっていくというお話。
いやー、なんとも、ナンセンスな展開。「くまくん」以外はみんな、元の名前がいいや、となるんですが、逆立ちした名前とそれがよくない理由は、読んでいてへなへなと脱力してくる感じです。一種の言葉遊びですが、名前が逆さまになるだけで、ずいぶんイメージが変わるんですね。その横滑りぶりが、とてもおかしい。予想通りと言うべきか、「かばくん」も登場していました。
ラストのオチも、ユニーク。また別の言葉遊びが始まりそうです。
考えてみれば、こういう言葉遊びは、子どもにとって、なじみ深いかもしれません。あだ名もその一つかなと思います。大人になると、名前をいじるのは失礼という社会常識が邪魔しますが、子どもにとっては、とても身近な遊び。その楽しさがこの絵本には表されていると思います。
絵は、白い画面に動物だけが描かれており、森や草原といったような背景描写は一切ありません。でも、この画面のシンプルさは、言葉遊びというモチーフによく合っていると思いました。名前を逆に読むのは、とても抽象的な操作なんですね。逆立ちも、上を下に、下を上にというごく単純なアクション。だから、余計な装飾をそぎおとした画面が、しっくりくるように感じます。
あと、ページのめくりのリズムも印象的です。「くまくん」と動物たちとのやりとりがあり、そしてページをめくると逆立ちしているのです。めくったときのインパクトが効いています。
▼二宮由紀子 作/あべ弘士 絵『くまくん』ひかりのくに、2004年、[印刷所:図書印刷株式会社]