今日は1冊。金曜日の夜、まちのフィルハーモニック・ホールで演奏会を開くオーケストラのメンバーがどんな支度をして集まるのかを描いた絵本。体を洗ってふく、ヒゲをそる、下着をつける、くつ下をはき服を着る、楽器の入ったカバンを持ち家の人に「いってきます」と言う……といった一つ一つのプロセスが見開き2ページを単位にして描かれていきます。ラストは、指揮者が指揮棒を振って演奏会を開始。
シャワーを使うかお風呂に入るか、男の人たちがヒゲをそるかどうか、アンダーショーツかブリーフか、女の人たちが宝石をつけるかどうか、などなど、それぞれの支度はもちろん人によって違うわけですが、その違いが細かく描写されていて、おもしろい。
姿かたちを並べて描き、しかも数値を出して正確に分類しているところは、なんとなく今和次郎さんの考現学を彷彿とさせます。たとえばこんなところ。
男の人たちは 下着を きてしまうと
こんどは 袖の長い 白いシャツをきて
ボタンを かけます。
それから 黒いズボンを はきます。
45人は 立ったまま ズボンをはいて
47人は 腰かけて はきます。
この文が付いたページには、じっさい8人の男の人がシャツを着たりズボンをはいたりしている様子が描かれています。
各人それぞれの支度なのですが、なかでも独特なのが指揮者。フリルの付いたシャツや白い蝶ネクタイや燕尾服は指揮者しか着ませんし、運転手つきのクルマでホールに向かいます。なるほどねーと納得。
105人一人ひとりの個性あふれる支度は、それぞれの多様な生活を表し、またそれぞれの演奏する楽器が固有の音色を持っていることを反映しているかのようです。と同時に、そうであるからこそ、105人全員が集まり一つになって美しいシンフォニーを奏でることのすばらしさも伝わってくるように思いました。
原書の刊行は1982年。この絵本、おすすめです。
▼カーラ・カスキン 作/マーク・サイモント 絵/岩谷時子 訳『オーケストラの105人』すえもりブックス、1995年[新版]