子どもにどんな絵本を選んだらよいのかは誰しも悩む点ですが、これについて中川さんは次のように書かれています。
私は、「子どもにどんな絵本を見せたらよいのですか」という質問をされる時があり、そういう時たいてい逃げ腰になる。私自身、まったく行き当たりばったりで選んでいたからだ。
[中略]まず、どんな絵本でもいいから自分の目で見て、おもしろいなと思ったものを選んでいただきたい。子どもや孫のためでなく、自分のために絵本を選んでみる。あなたを支え、力になる絵本がきっとあることと思う。絵本の幸福な記憶は、子ども時代だけに形作られるわけではないのだ。
最近の調査では、世界中で本を読む子どもの順位は、日本が調査した国の中での最下位ということだ。どうして日本の子どもたちはそんなに本離れしてしまったのだろう。でも、大人たちも絵本を愛するなら、絵本に親しむ子どもたちも自然に増えていくのではないだろうか。幸福な記憶を大人と子どもで共有できるということも、絵本が私たちにくれるすばらしい贈り物といえるだろう。
(19ページ)
この中川さんの考え方にはかなり共感できました。
もちろん、自分がよいと思う絵本を子どもに押しつけてはいけないと思います。でも、自分が楽しめなくては、子どもといっしょに絵本を読むことも難行苦行になってしまいます。世間で評価されている「よい絵本」を探して血眼になるなんてことも、ありえない話ではないでしょう。絵本の読み聞かせも、義務としてやっているなら、子どももそのことに気がつき息苦しくなるのではないでしょうか。子どものため、教育のため、といった考え方から一度おりてみる、そんなことが求められるのかもしれません。
中川さんが書かれているように、まずは「自分のために絵本を選んでみる」。そのうえで、「絵本の幸福な記憶」を独りよがりなものにするのではなく子どもと共有できるようにすること、これが大事なんじゃないかと思います。
そして、そのためには、たぶん、絵本についての思いこみや先入観をなるべく取り去ることが必要になるのかもしれません。「絵本なんてこんなもの」「こんな絵本がいい絵本」とは思い込まずに、いろんな絵本を読んでみる、絵本の多様性と広がりを自分なりに楽しんでみる。
なんだか私もえらそうに書いていますが、中川さんの文章を読んで、自分が子どもと「幸福な記憶」を共有できているかなあと少し考えてしまいました。
▼中川素子『絵本は小さな美術館』平凡社新書、2003年、定価(本体 880円+税)