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バーバラ・マクリントック『ダニエルのふしぎな絵』

 絵を描くのが好きな女の子「ダニエル」と「おとうさん」の物語。「ダニエル」は、写真家の「おとうさん」の写真のように、目に見える通りに描こうとするのですが、いつもうまくいきません。不思議な絵ばかり描いています。そのうち、「おとうさん」の写真は売れなくなり、病気で寝込んでしまいます。「ダニエル」はなんとかしようとするのですが……。

 この絵本はいろんな読み方が出来ると思いますが、私がなにより引き込まれたのは、二人きりの家族のきずな。写真が売れなくてカフェに入ったとき、「おとうさん」を元気づけようとする「ダニエル」、そしてページをめくると、二人が路地をだまって歩く姿が描かれています。ここを読んでいて、なんだか切なくなりました。その後、「おとうさん」が病に伏せってから「ダニエル」が奮闘する姿にも心動かされました。

 どちらにも、少し離れた視点から俯瞰する構図が見られるのですが、それは、親子の姿が小さく描かれるがゆえに逆に、そのきずなの強さを伝えているように思います。二人が互いを思いやる様子が画面の端々に表されており、気持ちが引き込まれます。

 また、「ダニエル」のけなげで懸命な様子からは、落胆、絶望、希望、喜びといった心の動きが鮮やかに浮かび上がってきて、ラストでは「ダニエル」と一緒にこちらまでうれしくなります。画面のなかの「ダニエル」はいつも小さいのですが、本当に多くのことを物語っています。非常にエモーショナルな絵本だと思います。

 そういえば、カフェの場面は物語のラストと呼応していますね。ささいなことですが、同じものが別の意味を込めて再び現れています。これも、ある意味で家族のきずなの掛け替えのなさを表現しているように感じました。

 ところで、この絵本のもう一つの大きなモチーフは、「ダニエル」が自分の居場所を見つけること。目に見える通りに写真を撮る「おとうさん」と自在にイマジネーションの翼を広げる「ダニエル」がまさに対照をなしており、そのために物語の前半で「ダニエル」はいつも自分で自分を否定しています。

 そんな「ダニエル」がある出会いによって、自分がありのままでいていいことを理解し、そして「おとうさん」もそれを認めていきます。一つの才能が見出され生かされていくことの幸福が描かれているように思いました。別の角度から見るなら、子どもの自由を周りの大人がきちんと評価し受け入れることの重要性を表していると言えるかもしれません。

 絵は端正で、クラシカルな雰囲気。スペースを広くとり、細部にまで丁寧に筆が入れられ、静謐でとても美しい画面です。また、全体を通して、くすんだセピア色の色調は、どことなくノスタルジック。「ダニエル」と「おとうさん」のつつましくも幸せな暮らしを浮かび上がらせていると思います。

 と同時に、比較的抑えた画面のなかで、「ダニエル」の描く絵だけが非常にカラフルに彩色されています。この対比は、「ダニエル」の「空想のつばさ」が自由自在に羽ばたく様を感受させるように思いました。

 カバーには「作者のことば」が記されています。それによると、作者のバーバラ・マクリントックさんのお父さんも写真家だったそうです。「ダニエル」と同じように、マクリントックさんも子どもの頃から不思議な動物の絵を描いていたとのこと。マクリントックさんのお父さんは、いつも励ましてくれたそうです。この絵本は、そんなお父さんとお母さんに捧げられています。

 原書“The Fantastic Drawings of DANIELLE”の刊行は1996年。

▼バーバラ・マクリントック/福本友美子 訳『ダニエルのふしぎな絵』ほるぷ出版、2005年、[日本語版装丁:湯浅レイ子、印刷:共同印刷株式会社、製本:株式会社ハッコー製本]