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『飯野和好と絵本』(その3)

 インタビューでもう一つおもしろかったのが、読み語りから生まれる「芸能」について語っているところ。

 飯野さんは、月に1~2回、渡世人の旅姿で読み語り公演をされているそうです。北海道から沖縄まで全国の図書館や小学校や酒蔵やお寺など、自身の絵本を手に持って浪曲や講談、落語調で読むとのこと。そのときに感じられたのが絵本の持つユニークな力。引用します。

絵本の言葉を読むことで、語り手と聞き手がひとつの場を共有するんですね。一冊の本から突然、立体的な芸能の場が立ち上がってくる。読んでいる途中も、小学生なんかが突っ込みを入れてくる。それに僕が返して、掛け合いが生まれる。

[中略]

お母さんが子どもに読み聞かせるときも同じだと思うんですよ。たったふたりの間だけど、おはなしが繰り広げられる場を共有している。今ごろになって、絵本の深さ、はかり知れない可能性を強く感じますね。(80ページ)

 読み語り(ないし読み聞かせ)を「芸能」として捉える! これはおもしろいですね。「芸能」と言っても、具体的に浪曲や講談だけでなく、少し広く考えるとよいように思いました。つまり、語り手(演じ手)と聞き手がいて、同じ場を共有し、しかもコミュニケーション(掛け合い)が生まれるということ。この意味では、子どもへの読み聞かせも、たしかに「芸能」の場になるのかなと思います。

 逆に言うと、場の共有と掛け合いによってこそ、読み語りや読み聞かせはより生き生きとしてくると言えるかもしれません。

 そういえば、うちの子どもも読み聞かせで、たまに「突っ込み」を入れてきます。それに応えながら絵本を読んでいくのは、なかなか楽しいです。

 ところで、飯野さんは現在、小学校などの生徒向けに『ねぎぼうずのあさたろう』のミュージカルシナリオを書いているとのこと。大分県ではおばちゃんたちが「あさたろう」のお芝居を上演していたそうです。やっぱり『ねぎぼうずのあさたろう』は芝居心(?)をくすぐるんじゃないかと思います。

 子どもの頃のごっこ遊びが飯野さんのチャンバラ時代劇絵本の原点だそうですが、その絵本が今度はチャンバラのお芝居やミュージカルを生み出していく。ぐるっとめぐって一つにつながっているようで、おもしろいです。

 飯野さんご自身も、読み語り公演のほかに、荒井良二さんやあべ弘士さんといった絵本作家の方々と劇団「てくてく座」を結成して時代劇ミュージカルを上演したり、ブルース・ハーモニカ奏者としてライブハウスに出演しているそうです。多彩な活動ですが、こういった「芸能」活動がまた、飯野さんの絵本作りにも生かされているように思いました。

▼飯野和好 監修/水田由紀 著『みずゑのレシピ 飯野和好と絵本 ストーリーを考える・キャラクターをつくる』美術出版社、2003年、定価(本体 1,900円+税)

『飯野和好と絵本』(その2)

 インタビューを読んで意外だったのは、飯野和好さんにも不遇の時代があったということ。

 そもそも絵本の世界に入ったきっかけは、堀内誠一さんだそうです。堀内さんに出会ってファンタジーを知り、それを自分なりに描いて絵本にしたのが、1981年の『わんぱくえほん』(偕成社)。しかし、それまではなかなか認められず、それ以降も10年は絵本の仕事が来なかったとのこと。ちょっと信じられない話ですが、「絵がきれいでない」とか「アクが強すぎる」とか言われて絵本として使ってもらえなかったのだそうです。

 そして再び絵本に取り組んだのが1991年の『ハのハの子天狗』。この絵本はほるぷ出版のシリーズ「イメージの森」の一冊です。ここではじめて、チャンバラ絵本といういまに続く飯野さんオリジナルの世界ができ、仕事をするときの迷いがなくなったとのこと。この『ハのハの子天狗』については次のように語られていました。

チャンバラの絵本をつくりたいと編集者に言ったら「あ、いいですね。チャンバラ、私も好きですよ」。これはうれしかったねぇ。今までは「絵本はこうでなければ」と言われていたのが、自分の好きなものをそのまま出して一緒にやっていける受け手が出てきた。勇気が出るよね。(78ページ)

 絵本の出版にとって編集者の存在の大きさがよく分かる逸話です。「イメージの森」シリーズはいままでにないような絵本を作ろうという企画で、だから、飯野さんにも話が来たのだそうです。「イメージの森」というと、スズキコージさんの『サルビルサ』というこれまた強烈な絵本を思い出しましたが、当時、絵本の表現の幅を広げようという意識が編集者の側にあったのかなと思います。

 このことと関連して、飯野さんは90年代以降の絵本の世界の変化についても語っています。

 1990年代頃からかな、絵本の世界が変わってきたような気がするんです。それまでは絵本は子供のためのもの、というしばりが強かった。ちゃんとした筋立てがあって絵も明るいもの、可愛いものが求められた。僕のは「気持ち悪い」と言われてなかなか使ってもらえなかったんです。売り込みをしてもほとんどダメだったし……。

 だけど、編集者などのつくり手や、読者の意識がだんだん変わってきたんですね。絵本にはもっと多様な世界があるんじゃないか、と。

 絵本は絵の力で物語るという、ユニークな性質を持ったもの。子供のためだけというのではもったいないと思います。(79ページ)。

 「気持ち悪い」と言われたとのこと。うーん、びっくりです。

 あまり短絡的に考えてはいけないのでしょうが、上記の飯野さんのインタビューを読んで、狭隘な「子ども観」が絵本の世界を貧弱にすることもあるのかなと思いました。「子どものため」を意識しすぎることが逆に子どもの感性をみくびることになる、あるいは一定のイメージを子どもに押しつけることになる。

 だから、「子供のためのもの」という凝り固まったしばりを解くことで、絵本の世界が広がり、それがたとえば『ねぎぼうずのあさたろう』シリーズのような子どもたちにとって圧倒的におもしろい絵本を生み出すこともあるということ。

 これからの仕事について、飯野さんは「年齢を超えた絵本」を描いてみたいと語っています。たとえば、人間の情念がからんだ物語や、チャンバラ絵本でもドロドロと暗い雰囲気を持ったものだそうです。「10年後くらいにはなんとかなるんじゃないか」ということですが、絵本の世界がさらに広がりそうで楽しみです。

▼飯野和好 監修/水田由紀 著『みずゑのレシピ 飯野和好と絵本 ストーリーを考える・キャラクターをつくる』美術出版社、2003年、定価(本体 1,900円+税)

『飯野和好と絵本』(その1)

 この本は、『ねぎぼうずのあさたろう』等のチャンバラ時代劇絵本で知られる飯野和好さんが、絵本作りのノウハウを語った入門書。主として、絵本を自分で作ってみたいという人向けの本ですが、飯野さんの絵本が好きな方にとってもなかなかおもしろいと思います。

 はじめに口上(?)が記されていました。

「このたび、私、おきて破りの絵本塾を始めることにいたしました。皆さまに、かけがえのない一冊の絵本をつくっていただくため、飯野の仕事の舞台裏、すべてお目にかけてしまいやしょう。
我まま勝手なやり方は、どうぞご勘弁。
それでは、わらじのひもをきゅっと締めて、いざ、まいろうかぁ~!」(6ページ)

 付けられた写真が、満開の桜の下、渡世人風の格好で二カッと笑う飯野さん。楽しい雰囲気です。

 絵本塾は、ご存じ「ねぎぼうずのあさたろう」と「にんにくのにきち」が弟子になって進みます。アイデア発想法、キャラクター作りやストーリー作り、下描きから着彩、画材選び、さらには手製本の仕方に至るまで、一つ一つていねいに説明されています。写真もたくさんあり、絵本を作ってみたいという人にはたいへん参考になると思います。雑誌『みずゑ』誌上で1年間にわたって読者の一人が飯野さんのアドバイスのもと絵本を実作した過程も再録されていました。かなり実践的です。

 自分が本当に描きたいものを原点にする、ファンタジーであっても現実のリアリズムに裏打ちされていることが大事、といった絵本作りの基本姿勢についても、多くのコメントが記されています。

 また、この本には『freestyle art book』という何も描かれていない「まっ白い絵本」がセットで付いていました。全部で24ページ。これを使って、自分だけの絵本を作ってみようということのようです。

 なんとなく思ったのですが、絵本作り、いまブームなのかもしれませんね。

 絵本作りはともかくとして、飯野さんの絵本を知るうえでも興味深い点がたくさんありました。たとえば、飯野さんのアイデア発想法は、電車に乗ることだそうです。まわりの乗客をよく観察して、そこから絵本のキャラクターやストーリーを考えていくとのこと。

 また、飯野さんの画材遍歴、じっさいの着彩や手書き文字書きのプロセスも、これでもかというくらい、詳細に説明されています。着彩については、1枚の絵を仕上げていく過程が24枚の写真付きで載っていました。細かな筆使いまで分かるようになっています。

 すごいなと思ったのは、手書き文字の書き方。さらっと一筆で書いているわけではまったくなく、文字の角を強めたり先を丸くしたり塗りつぶしたり太くしたり、一つ一つの文字ができあがるまでに幾つもの作業が重ねられています。手書きとはいっても、それは、文字の新しいデザイン、新しい書体を生み出すことと言ってよいようです。

 それから、これもはじめて知ったのですが、下描きの最初の段階では、キャラクターや個々の場面のコンテを描かれるのだそうです。描き上げたコンテは床などにずらっと並べ、全体の構成やストーリーの流れをあらためて練っていき、また、場面の構図、人物のポーズや表情や服装、セリフやト書きなど、細かな点も一つ一つ検討するとのこと。そのうえで、全体を通しての下描きであるラフを描き、さらにまた検討。こうしてやっと本画に入るそうです。

 この一連の過程で飯野さんが気を付けていることの一つは次の点。

 絵本の場合、特徴的なのは、”めくり”で進行してゆく読み物だということ。だから、ページをめくった瞬間の印象がものをいうんです。

 僕がいつも心がけているのは、ページをめくるときの読者の予想を裏切ること。たとえば構図でも、「こうくるだろうな」というのを、あえてはずす。

 そしてひとつの場面でも、見下ろしたアングル、見上げたものなど、2、3パターン描いてみて、内容を伝えながらも、いちばん目に驚きを与えるものを選びます。

 思いがけないものがパッと現れると、人って「あ、いいな」と思うわけ。その瞬間、その絵本の中にフッと入っちゃう。
(40ページ)

 絵本の特質の一つが「めくり」にあるとのこと、言われてみればたしかにその通りですね。おもしろいです。

 ほかには、チャンバラ絵本が生まれたきっかけも書かれていました。ジョニー・ハイマスさんという写真家が撮った山道の写真なのだそうです。飯野さんが子どもの頃に学校に通っていた道にそっくりで、そこから子どもの頃のチャンバラごっこを描いてみようと思い立ったとのこと。

 写真の実物も掲載されていましたが、本当に昔ながらの緑に包まれた山道。奥の方で左に曲がって山に隠れるようになっています。向こうから何が出てくるか分からない、そんな感じです。こういう場面設定は、飯野さんのチャンバラ絵本にも何度か出てきたと思います。

 あと、子どものころから現在に至るまでを語ったインタビューも載っていました。ここでも興味深い点が幾つかあったのですが、これはまた別の記事で紹介したいと思います。

▼飯野和好 監修/水田由紀 著『みずゑのレシピ 飯野和好と絵本 ストーリーを考える・キャラクターをつくる』美術出版社、2003年、定価(本体 1,900円+税)