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「赤ちゃん絵本を考える」を作成:京庫連

 京都新聞、7月29日付けの記事、京都新聞 電子版:幼児の絵本 350冊紹介 京庫連、冊子を作製 研究成果まとめる

 京都府内の「子ども文庫」のネットワーク「都家庭文庫地域文庫連絡会」(京庫連)が、2歳以下の幼児向け絵本を紹介する冊子「赤ちゃん絵本を考える」を制作されたそうです。絵本ボランティアや図書館司書の方が2年前から毎月一度、絵本の勉強会を開いており、その成果として、約350冊の「赤ちゃん絵本」を15のジャンルに分けて意見や感想をまとめたものとのこと。

 非常に素晴らしいと思うのは、実際に読み聞かせをした経験をふまえて、率直に評価を記しているところ。絵本ガイドというと、基本的にはポジティヴな意見しか載らないと言えますが、この冊子は違います。問題があるところ、おかしいところは、厳しく指摘しているそうです。

 赤ちゃん絵本やその読み聞かせがある種ブームになっているなか、こういう取り組みはとても重要なのではないかと思います。できたら私もぜひ読んでみたいです。

『子どもの本~この1年を振り返って~2003年』(その2)

 日本子どもの本研究会絵本研究部の代田知子さんが担当された「今年の絵本」(16~29ページ)では、赤ちゃん絵本とブック・スタートについても書いてありました。興味深かったので紹介します。

 代田さんによると、2003年の一つの傾向は、赤ちゃん絵本がたくさん刊行されていることだそうです。たとえば「いないないばあ」の絵本はなんと8点も出ているとのこと。

 たぶん、このあたりが、以前の記事で紹介した『いないいないばあ』の著作権問題の背景なのかなと思います。

 それで、代田さんは、いまの赤ちゃん絵本について2つほど問題点を指摘されていました。

 一つは、赤ちゃん絵本といいながら、実は、もう赤ちゃんではない子どもたちが喜ぶものが多いということ。これは図書館の読み聞かせで代田さんがじっさいに経験されていることだそうです。本当の赤ちゃんにはあまり受けず、3歳ぐらいの子どもがとても喜ぶのだそうです。

 なんとなく思ったのですが、赤ちゃん絵本はまだあまり蓄積がなく、発展途上なのではないかということ。私もそんなに詳しくないので間違いかもしれませんが、たとえばゼロ歳児に絵本の読み聞かせをするのは、それほど昔からではないでしょう。歴史が浅いがゆえに、絵本作家の方々や絵本の編集者の方々もまだ試行錯誤の段階なのかなと思いました。

 いわゆる赤ちゃん学の領域では、ゼロ歳児が絵本をどのように受け入れているのか、いろいろ研究が進んでいるようです。これについては、以前の記事で紹介したNHK教育の「すくすく子育て」でも少し取り上げられていました。ただ、そういう研究が、じっさいの絵本作りの現場に生かされることはあまりない、あるいは生かせるほどの研究成果になっていない、ということかもしれません。

 もう一つ、代田さんが指摘されていたのはブック・スタート運動のあり方。赤ちゃん絵本がたくさん出版されている背景の一つに、ブック・スタート運動が挙げられます。代田さんが危惧されているのは、ブック・スタート運動が絵本の質をきちんと考えているかどうかということ。引用します。

……今ブック・スタートの多くは、図書館ではなく保健所が現場になっているわけですが、「赤ちゃんに本を」というふうに言いながらも、本の魅力や大切さを伝えるというところが欠けていて、母子遊びの道具として使っている。もちろん道具でいいのですが、文化財である絵本を使うからには、やはり質の高いものと出会わせるような工夫をしていかないと、ブック・スタートの運動も片手落ちになってしまうのではないのかと不安になりました。(18ページ)

 代田さんが出席されたブック・スタートの全国大会の分科会では、絵本をもっと安くできないかという話が出たそうです。出版社の方が「うちでは350円の絵本も出しています」と言い、これに対し司会の方が「もっと安く、150円になりませんか」と言うと、「では社長に相談してみます」と答えたとのこと。これに対し、代田さんは次のように発言されたそうです。

「今、100円のジュースを平気で買い与える親が多い中で、そんなに350円の本、高いですか?私は1000円でも高いとは思いませんけれど」(18ページ)

 私が住んでいるところではブック・スタートはないので、よくは分かりません。ただ、誰がどのように絵本を選んでいるのかが、たぶん問われるのだろうと思います。保健所だからダメということはまったくないでしょうが、絵本の質をきちんとふまえた取り組みが必要なのかもしれません。

 最初の指摘と合わせて考えるなら、質を問うことなく、ある種ブームのように赤ちゃん絵本がばんばん出され、それに流されるように赤ちゃんに絵本が与えられていく……これがいまの赤ちゃん絵本の危うさということでしょうか。

 とはいえ、赤ちゃん絵本の「質」をどう捉えるかがまた大問題かもしれませんね。

▼NPO図書館の学校 編集・発行『子どもの本~この1年を振り返って~2003年』発売:リブリオ出版、2004年、定価 1,365円

絵本の著作権

 以下は、Yahoo! ニュースに出ていました。もともとは共同通信社から発信された記事です。

定番絵本の作者が提訴へ 「ページ構成など酷似」

 ロングセラーの赤ちゃん絵本「いない いない ばあ」(童心社)の作者松谷みよ子さん(78)と瀬川康男さん(71)が、自らが作り出した表現方法を学習研究社(東京都大田区)の絵本で無断で使われ、著作権を侵害されたとして、同社と作者に、計約2100万円の損害賠償などを求める訴訟を25日、東京地裁に起こす。
[以下略]

 二つの絵本の写真(見開き2ページ)も掲載されています。たしかによく似ています。

 著作権の専門的な議論はよく分かりませんが、注目したいのは、模倣された要素の一つとして「見開き2ページを使って動物などが『いない いない』という動作をし、次の2ページで『ばあ』という動作をする」が挙げられている点。ページのつくりと絵の配置がここでは問題になっていると言えます。

 たしかに絵本のばあい、個々の文や絵のみならず、絵本全体をどのように構成していくかにも、作者の独創性と創造性が発揮されていると思います。そのことは、前の記事で紹介した中川素子さんの『絵本は小さな美術館』でも指摘されていました。この意味での著作権も看過されてはいけないのかもしれませんね。

すくすく子育て(NHK教育):絵本との出会い

 NHK教育で日曜の午後6時から放送されている「すくすく子育て」。番組のウェブサイトもあります。1月4日のテーマは「絵本との出会い」でした。テーマがテーマなので「これはちゃんと見たいな」と思い、ビデオに録画。ようやく見ることができました。

 今回は0歳児から赤ちゃんと絵本を楽しもうという主旨で、なかなかおもしろい内容だったのですが、「そんなこと言っていいのか?」と疑問に思うところもありました。

 とりあえず、役に立つ情報から……

 まず、私もはじめて知ったのですが、ブックスタートという取り組みが全国各地でおこなわれているそうです。これは0歳児健診のときに赤ちゃんと保護者に絵本を配布していく運動で、2003年12月現在で全国の計573の自治体がすでに実施しているとのこと。長野県茅野市では、出生届を提出するときに絵本を1冊プレゼントするといった取り組みもされているそうです。

 このブックスタート、もともとは1992年にイギリスのバーミンガムではじまり、2001年から日本でも本格的に取り組みがはじまったとのことです。ブックスタートをサポートする団体として、NPOブックスタート支援センターも2001年に設立されています。このNPOのウェブサイトに詳しい説明があります。

 それから、番組では、言葉がまだ分からない0歳児でも十分絵本を楽しめることがいろいろと説明されていました。読み聞かせのコツや、0歳児におすすめの絵本も紹介されていて、これは役立ちます。

 「すくすく子育て」のウェブサイトにも今回の内容の要約がありますが、おすすめ絵本については掲載されていないので、参考のため、以下に書誌情報を挙げておきます。

  • 神沢利子 文/柳生弦一郎 絵『たまごのあかちゃん』福音館書店、1993年、定価780円
  • 真砂秀朗『リズム』ミキハウス、1990年、定価(本体 826円+税)
  • 谷川俊太郎 作/元永定正 絵『もこ もこもこ』文研出版、1995年、定価(本体 1,243円+税)
  • 林明子『おつきさま こんばんは』福音館書店、1986年、定価735円
  • 中川ひろたか 文/100%Orange 絵『スプーンさん』ブロンズ新社、2003年、定価(本体 850円+税)
  • 中川ひろたか 文/100%Orange 絵『コップちゃん』ブロンズ新社、2003年、定価(本体 850円+税)

 0歳児のおすすめ絵本については、上記のNPOブックスタート支援センターのウェブサイトでもたくさん紹介されていました。

 で、私がこの番組で疑問に思ったことなのですが、「ママが読むとよい本」と「パパが読むとよい本」があると説明していたところです。どうやら声が高いが低いかで読み聞かせをしている赤ちゃんの反応が違うということで、「ママが読むとよい本=楽しい、メルヘンなど」「パパが読むとよい本=恐い、冒険など」とされています。これは、京都大学大学院助教授の正高信男さんの研究だそうで、ゲストの東京大学大学院助教授の秋田喜代美さんがそのように紹介していました。

 たしかに、赤ちゃんの発汗作用など科学的なデータの裏付けがあるようですが、でもなあ、なんかおかしくないですか? 問題になっているのは、声が高いか低いかであって、それは「ママ/パパ」とは関係ないんじゃないかなあ。女性にも声の低い人はいるし、男性にも声の高い人はいるわけで、それを「ママ/パパ」に簡単に割り振っていいんだろうか。男性だろうが女性だろうが、内容に応じて読み聞かせの声の表現を工夫すればいいだけでは? この図式、ちょっと問題ありと思います。

 もちろん、番組としては、「絵本が苦手なパパもぜひ絵本の読み聞かせをして下さいね」という主旨なんでしょうが、それを単純に「ママ/パパ」の役割分担につなげていいんでしょうか?

 男性だって「楽しい、メルヘンなど」の絵本を読んでいいし、女性だって「恐い、冒険など」の絵本を読んでいい。こんな窮屈で不自由な読み聞かせはしたくないし、自分の子どもにもそんなつまらないことを教えたくないので、私としては断固、上記の図式に反対です。絵本の読み聞かせって、もっと自由で楽しいものだと思うのですが……