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渡辺茂男/赤羽末吉『へそもち』

 高い山の上の黒い雲の上に住んでいる「かみなり」。ときどき地上に飛び降りて、動物や村人のおへそを持っていってしまいます。ある日、「かみなり」の住む黒雲がお寺の上にやってきたので、和尚さんは長い槍を五重塔のてっぺんに結びつけておきました。すると、飛び降りた「かみなり」は槍に引っかかって宙ぶらりん。日頃「かみなり」に困り果てていた村の衆は「ころしてしまえ!」と叫びますが、「かみなり」曰く「おへそを食べないと雨を降らすことができません」。さて、どうしたものか? 和尚さんが考え付いた解決策が物語のラストです。

 この絵本、「こどものとも」のあの横長の画面をそのままぐるっと90度回転させて縦長にし、しかも縦にめくっていくというつくり。絵は見開き2ページをいっぱいに使っているので、横20センチに縦54センチというかなりの縦長画面です。

 そして、この縦長の空間が、雲の上と地上とを行きつ戻りつする物語にぴったりと呼応していて、非常に印象的。たとえば「かみなり」が出す稲妻は、縦見開き2ページの上から下へ勢いよく描かれ、かなりの迫力です。また「かみなり」がおへそを取ることを描写した画面では、縦見開き2ページの下におへそを取られた村人たちが横たわり、上にはおへそを手に持った「かみなり」が描かれています。「かみなり」の上下移動がそのまま画面に定着しており、実にダイナミック。

 五重塔のてっぺんに引っかかった「かみなり」の描写も、高い高い五重塔が縦見開き2ページの一番下から上に向かってぐいぐいのびていき、そのてっぺんに小さく「かみなり」が描かれています。五重塔の巨大さに対して「かみなり」の頼りなさが際立っています。

 うちの子どもは、おへそがおもしろかったようで、「かみなり」がおへそを手に持っている画面では「あっ、おへそ!」と指さしていました。このおへそ、見ようによっては和菓子のようにも見え、なんだか、おいしそうなんですね。

 おへそを取られた村人たちの様子も、たしかに難儀そうなのですが、どことなくユーモラス。「おへそがえる・ごん」シリーズの「へそとりごろべえ」のエピソードを思い出しました。

 あと、五重塔に引っかかった「かみなり」に村の衆の一人が「ひぼしにしろ!」と叫ぶのですが、うちの子どもはこれを「煮干し!?」と言い換えて大受けしていました。うーむ、「かみなり」の「煮干し」かあ。うちの子ども、おもしろいぞ!(^^;)。

 ともあれ、この絵本、おすすめです。

▼渡辺茂男 作/赤羽末吉 絵『へそもち』福音館書店、1966年(こどものとも傑作集としての刊行は1980年)

ルース・スタイルス・ガネット/ルース・タリスマン・ガネット『エルマーと16ぴきのりゅう』

 この間に少しずつ読んでいた「エルマー」シリーズの第三巻、読み終わりました。「どうぶつ島」と「カナリヤ島」の冒険から家に帰った「エルマー」。「りゅう」もまた家族の待つ「そらいろこうげん」に戻るのですが、15匹の家族たちは人間に追いつめられ危機に陥ってしまいます。「エルマー」は助けを求めてきた「りゅう」に再会し、一緒に「そらいろこうげん」に向かう、という物語。

 今回もまた「エルマー」は創意工夫で「りゅう」の家族たちを救い出します。文中では、第一巻や第二巻と同じく、作戦に必要なアイテムがいろいろ細かく描写されていました。これをどう活用するんだろうと読み進めていくと、なかなか手の込んだ、しかも楽しい計略。けっこう緊迫する場面もあり、うちの子どもは集中して聞いていました。

 この描写の細かさ、とくに数字の細かさは、「エルマー」シリーズの特徴の一つですね。第二巻では「エルマー」の食べる「みかん」の数がそのつどカウントされていましたが、第三巻では食べ物に加えて、「りゅう」の家族の数や「エルマー」の持つお金もきちんと計算されています。几帳面というか、救出のための周到な準備とも相まって、ある種の合理性を表しているような印象を持ちました。

 しかし、「エルマー」、やっぱり食べ過ぎのような……。いくら大冒険のあととはいえ、一度にあんなに目玉焼きを食べて大丈夫なんだろうか(^^;)。

 ところで、今回登場する「りゅう」の家族は、なかなかユニーク。数ページにわたって続く挿絵では、「たいそう」の楽しいポーズをとった「りゅう」たち一匹一匹がきちんと描かれています。「たいそうのめいじん」の「りゅう」というのも、おもしろい。うちの子どもは、「りゅう」たちの模様と本文中の説明を照らし合わせていました。楽しい趣向です。

 荒々しいと思われている「りゅう」が実はそうではないこと、人間の都合によって恐そうなイメージが作り上げられているだけであること、このあたりの説明も考えてみれば意味深ですね。当たり前と思われていることがただの思い込みであり、しかもそれは実は誰かの利益となるために捏造されたもの……こういう類の事例は身の回りにたくさんあるかと思います。

 それはともかく、へぇーっと思ったのは、第三巻になってはじめて「りゅう」の名前が明かされること。あらためて気が付いたのですが、たしかに第一巻と第二巻では名前が書かれていませんでした。恥ずかしくて言えなかったのだそうです(^^;)。

 あと、「エルマー」と「りゅう」の友情もなかなか印象的。とくに再会の場面と最後のお別れの場面。文中では実にさらりと描かれているのですが、ともに困難を乗り越えてきた仲間です。その絆が、付けられた挿絵や、またとくに表紙のイラストによく表れているように感じました。

 「エルマー」シリーズ、これでおしまいと思うと少し残念です。うちの子どもも「続きがあるといいのにねえ」と言っていました。「エルマー」と「りゅう」、また脇役の「ねこ」や「りゅう」の家族、まだまだいろんな物語が待っていそうな印象なのです。でも、これでおしまい。

 原書”The Dragons of Blueland”の刊行は1951年。

▼ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・タリスマン・ガネット 絵/渡辺茂男 訳/子どもの本研究会 編『エルマーと16ぴきのりゅう』福音館書店、1965年

ルース・スタイルス・ガネット/ルース・クリスマン・ガネット『エルマーとりゅう』

 「エルマー」シリーズの第2巻、読み終わりました。第1巻は危機また危機の冒険物語でしたが、今度は宝探し。「どうぶつ島」を脱出した「エルマー」と「りゅう」は家に帰る途中ひどい嵐にあい、小さな島に降り立ちます。そこは逃げたカナリヤたちが住んでいる「カナリヤ島」。「エルマー」は、カナリヤたちがかかっている「しりたがりのでんせんびょう」を直すという物語。

 この「しりたがりのびょうき」、ナンセンスでおかしいのですが、なんとなく分かるような。誰かが秘密にしていると、こちらも知りたくなってくる、そういう心理はたしかにあります。

 ところで、今回うちの家族の大疑問は「エルマーはみかんを食べ過ぎなんじゃないか?」。というのも、「エルマー」、たまにはキャンデーも食べていますが、ほとんど、みかんしか食べていません。しかも、一回に19個とか11個とか15個とか、ありえない数。数字がきちんと記録されているのも、なんだかおかしいのですが、それにしても、こんなにみかんばかり食べていて本当に大丈夫なんだろうかと、要らぬ心配をしてしまいます(^^;)。

 うちの子ども曰く「そうだよねえ。みかんばかり食べていると、おしっこが出るよねえ。あ、でも、エルマー、おしっこも、うんこも、してないね。なんでだろう」。うーん、鋭い! というか、まあ、「エルマー」がおしっこやうんこをしている場面を読みたいかって感じですね。

 いや、きたない話でスミマセン。

▼ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・クリスマン・ガネット 絵/渡辺茂男 訳/子どもの本研究会 編集『エルマーとりゅう』福音館書店、1964年

ルース・スタイルス・ガネット/ルース・クリスマン・ガネット『エルマーとりゅう』

 「エルマー」シリーズの第二作、今日から読みはじめました。今回も物語のはじめの方で「エルマー」の持ち物が説明されています。たぶん、創意工夫でそれを使って困難を突破していくのでしょう。どんな冒険が待っているのか、子どもともども楽しみたいと思います。

 この第二作の裏表紙には、「りゅう」がカラーで描かれていました。あらためて見るとかなり派手。相当に目立ってます。

 ところで、うちの子どもは、最初、読みはじめたとき「ページをとばしたんじゃない?」と言っていました。よく聞いてみると、どうやら本を開く方向を勘違いしていたようです。縦書きと横書きで開く方向が違うのは大人にとっては当たり前でも、子どもにとってはそうではないわけですね。本が物質であり、それにかかわって幾つものルールが作られていることを、あらためて意識させられました。

▼ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・クリスマン・ガネット 絵/渡辺茂男 訳/子どもの本研究会 編集『エルマーとりゅう』福音館書店、1964年

マンロー・リーフ『けんこうだいいち』

 先に読んだ『おっと あぶない』の姉妹編。こちらのテーマは健康と病気です。いわば「しつけ絵本」ですが、『おっと あぶない』と同様にユーモラスな描写と説明。しかも、大事な点はほとんど網羅されていると思います。

 今回も「まぬけ」が登場。たとえば「すききらいまぬけ」「しんぱいまぬけ」。あと「ねこぜさん」「ぐにゃりさん」なんてのも出てきます。うちの子どももニヤリとしていました。

 『おっと あぶない』もそうでしたが、冒頭部分が印象的。元気なときは健康のことをあまり考えないけれども、普段から気を付けることが重要と述べています。そのあとの部分を引用します。

あかんぼうのときは、
たべることも
きることも
うんどうすることも、
きれいな くうきを
すうことも、
おふろに はいって
きれいになって、
ベッドでゆっくり
ねることも
なんもかも だれかが やってくれます。
ところが……
だんだん おおきくなって、
いろんなことを おぼえてくると、
じぶんのことは じぶんで できるようになります。

 自分のことは自分でできる、だから健康のことも自分で普段から気を付けようと、自立を促す記述。それも単に「自立」を唱えるのではなく、赤ちゃんと対比させることで感覚的に分かりやすいように思いました。(考えすぎかもしれませんが)逆に言うと、いつでも誰もが自立できるわけではなく、必要なばあいには当然、周りの人びとが必要なケアをしないといけないことも伝えていると思います。

 『おっと あぶない』と比べると、全体を通じてだいぶ文書の量が多く、絵は比較的少なめ。テーマが健康だからでしょうか、視覚的に説明するというよりは、文章で説明するところに比重がかかっていると思いました。とはいえ、子どもにとって親しみやすく分かりやすいのは『おっと あぶない』と同じです。

 原書”Health can be Fun”の刊行は1943年。この原題は『おっと あぶない』と類似の表現(あちらは”Safty can be Fun”)ですが、的確に核心を突いており、すばらしいと思います。邦題もシンプルでよいですが、原題の方が、説教臭くないこの絵本の魅力をよく伝えている気がしました。

▼マンロー・リーフ/渡辺茂男 訳『けんこうだいいち』フェリシモ、2003年

マンロー・リーフ『おっと あぶない』

 いわば「しつけ絵本」。子どもがやりそうな危ないことを描いた絵本です。とはいえ、「しつけ」とはいっても、あまり説教臭くなく、むしろ、ユーモラス。

 冒頭部分を少し引用します。

あぶないことを
しないのは、
いくじなしだ
と 思っている子は、
なにもしらない子。
[中略]
ばかなことして
けがした子。
それが───
まぬけ
このほんは
まぬけだらけ

 「いくじなし」という考え方の間違いを最初に伝えているのがすごいなと思います。自分の子ども時代を思い出しても分かるんですが、危ないことをするのがかっこいい、危ないことに加わらないとバカにされる、といったことはよくあると思います。たしかに、友達同士の仲間関係は子どもにとって大事ですが、だからといって、危険なことをすることが偉いんじゃないということ。

 そして、これ以降、この絵本では、次から次へといろんな「まぬけ」が登場します。風呂場で熱いお湯を出して火傷する「ふろばまぬけ」、薬の入ったビンなどなんでも開けて口に入れる「くいしんぼうまぬけ」、棒つきキャンデーをくわえて走って転ぶ「ぼうくわえまぬけ」、道に飛び出していく「とびだしまぬけ」、せきやくしゃみをするとき口をおさえない「じぶんかってまぬけ」「ばいきんまぬけ」……といった具合。いやはや、これだけ「まぬけ」が並ぶと壮観です。

 基本的に見開き2ページの左ページに文章、右ページに絵というつくり。絵はとてもシンプルで、まるで落書きのよう。子どもたちの様子がユーモラスにのびやかに描かれています。と同時に、見ようによっては、けっこうブラックなニュアンスもありますね。「ひあそびまぬけ」や「おぼれまぬけ」、クルマのドアから出たら走ってきた別のクルマのバンパーに巻き込まれた「ドアちがいまぬけ」などは、ほとんど死んでいます(!)。とはいえ、描写が恐ろしいということはまったくありません。変に脅かしたりせずに、それでも大事なことを伝えていく、そういう描き方なのかなと思います。

 また、この絵本はページ数がかなり多いのですが、ユーモラスな絵とともに文章の表現がとても親しみやすく、どんどん読んでいけます。なにせ「~まぬけ」のオンパレード。うちの子どもは「ま・ぬ・け! ま・ぬ・け!」と拍子を付けて歌っていたくらいです。

 もちろん、中身は「これは危ないなあ」ということばかりなので、うちの子どもといろいろ話をしながら読んでいきました。うちの子どもは「僕はこんなことはしない!」と言うのも多かったのですが、なかには自分にも当てはまりそうな「まぬけ」もあり、そのときは神妙に聞いていました(^^;)。うちの子どもが何か危ないことをしそうになったら、「ほら、○○まぬけになっちゃうよ!」と言えるかもしれません。

 これは絶対にやってはいけないということは、子どもにしっかりと伝える必要があるでしょう。とはいえ、ガミガミ怒るだけでなく(でも怒ることもときには必要)、こういうかたちで、子どもに親しみやすく伝えていくことは大事だなとあらためて考えました。このユーモラスな文章と絵なら、子どもも理解しやすく、また忘れにくいんじゃないでしょうか。

 原書"Safty can be Fun"の刊行は1938年。そのため、描かれるクルマはだいぶ古いタイプのもので、うちの子どもは最初、よく分からなかったようでした。とはいえ、クルマの描写以外はすべて、いまでもまったく古びていない内容と思います。この絵本、おすすめです。

▼マンロー・リーフ/渡辺茂男 訳『おっと あぶない』フェリシモ、2003年

ルース・スタイルス・ガネット/ルース・クリスマン・ガネット『エルマーのぼうけん』

 この本、毎日少しずつ読んでいって、今日、読み終わりました。なかなかおもしろかったです。うちの子どもにとっても、けっこうドキドキワクワクだったようで、「少し恐いねえ」とか言いながら(うちの子どもはだいぶ恐がり^^;)、楽しく聞いていました。

 とくに「エルマー」が「どうぶつ島」に渡ってからは、各章ごとに次々と危機が訪れ、それを「エルマー」があっと驚く創意工夫で突破していきます。次はどうなるんだろうと物語に引き込まれていく感じ。物語の最初の方では、「エルマー」が出発する前にリュックサックに詰め込んだ荷物が一つ一つ挙げられていたのですが、それが生かされているんですね。これもおもしろい趣向です。うちの子どもに一番受けていたのは、表紙にもなっているライオンのエピソード。あの三つ編みとリボンが笑えます。でも妙に似合っています。

 それにしても、「エルマー」、実に聡明で賢い子ども、いや、たいしたものです。どんな問題にも臨機応変に対応して前に進んでいく……。もちろんファンタジーなのですが、こういうところは見習いたいくらい。

 ところで、うちの子どもは物語を読み終わると、「あとがきも読んで!」と言っていました。というのも、以前読んでいた「ルドルフ」シリーズにはどれも「あとがき」が付いており、そのイメージが頭にあったようです。『エルマーのぼうけん』には「あとがき」はなかったのですが、そのかわり、「この本をよんだ人に」と見出しのついた続巻の案内がありました。それを一通り読むと、「じゃあ、次はエルマーの2巻を読もう!」とうちの子ども。

 考えてみれば、『エルマーのぼうけん』のラストは、まさにこれから大冒険がはじまるような終わり方でした。「エルマー」と「りゅう」はまだ出会ったばかりです。「どうぶつ島」を脱出した二人(?)を待ち受けているのは何か。第2巻が楽しみです。ぜひまた読んでみようと思います。

▼ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・クリスマン・ガネット 絵/渡辺茂男 訳/子どもの本研究会 編『エルマーのぼうけん』福音館書店、1963年

ルース・スタイルス・ガネット/ルース・クリスマン・ガネット『エルマーのぼうけん』

 昨日で「ルドルフ」シリーズはひとまず読み終えたので、今日からは「エルマー」シリーズ。定番と言っていいかと思います。少しずつ読んでいきます。

 期待に違わず、なかなかスリリングな導入。ただ、最初はなにせ「とうさんのエルマー」の回想というかたちをとっているので、うちの子どもには少し分かりにくかったかも。物語のなかで語り手が変わっていくような感じなのですが、最後はもう一度、元の語り手に戻るのだろうか、それとも現在のお話につながるのかな。

 この本は絵本というよりは児童文学ですが、挿し絵がすばらしい。表紙のライオンのイラストとその色合いは見ているだけでワクワクしてくるよう。本文の挿し絵はモノクロですが、動物たちの様子がユニークに描写されており、冒険の雰囲気が伝わってきます。

 表紙と裏表紙の見返しには、物語の舞台となる「みかん島」と「動物島」の詳しい地図が付いていました。物語のエピソードも書き添えられています。これも、たのしい仕掛けです。

 この本、うちの子どもはたいへん惹き付けられたようで、『ルドルフといくねこくるねこ』を読んでいるときから、早く読みたいなあとだいぶ気になっているようでした。いや、その気持ち、よく分かります。「エルマー」シリーズは私も読んだことがなかったので、これから楽しみです。

 原書の刊行は1948年。

▼ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・クリスマン・ガネット 絵/渡辺茂男 訳/子どもの本研究会 編『エルマーのぼうけん』福音館書店、1963年

パット・ハッチンス『ぎんいろのクリスマスツリー』

 クリスマスを前に「りす」は自分の木を一生懸命飾り付けるのですが、なかなか気に入りません。そのうち夜になると、木の一番上の枝の真上に美しい銀色の星が出て、輝くクリスマスツリーになります。「りす」は大喜び。ところが、次の日、起きてみると、もう銀色の星はありません。いったい誰が取ってしまったのだろうと探しに出かける物語。

 「りす」は「あひる」「ねずみ」「きつね」「うさぎ」に出会うのですが、みんな何かを隠していて、あやしいなあと疑います。もちろん、誰も銀色の星を取っているわけはありません。ラストはすべての疑問が解けて、楽しいクリスマス・イブ。みんなでお祝いし、「りす」の銀色のクリスマスツリーも明るく輝きます。

 動物たちの毛並みは、ハッチンスさん独特の様式化された線描き。そして、なにより「りす」のクリスマスツリーが色鮮やかで美しいです。オレンジと緑と黄色で飾られ、上空には白く輝く大きな星。

 また、夜の描写が非常におもしろいです。画面を黒くあるいは暗くするのではなく、もくもくとわき上がる雲のような模様を青で描き、それによって辺りが見えなくなったことを表しています。なかなか新鮮な表現。

 そして青くなった画面のなかで、まるで舞台のカーテンを開くかのようにして、銀色のクリスマスツリーが現れます。じっさい物語のラストで青く彩色された部分は雲を表しており、雪が降りはじめると雲が割れて銀色の星が光り輝くという描写。「りす」はささやくように「クリスマス おめでとう みなさん!」と言います。この「ささやくように」というのが画面にとても合っていると思いました。いわばクリスマスの奇蹟。

 原書"The Silver Christmas Tree"の刊行は1974年。この絵本、おすすめです。

▼パット・ハッチンス/渡辺茂男 訳『ぎんいろのクリスマスツリー』偕成社、1975年