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ハーウィン・オラム/きたむらさとし『ぼくはおこった』

 絵と訳を担当している、きたむらさとしさんは、1980年代からイギリスで絵本を書かれている方だそうです。絵柄のなかにも、イギリス風のまち並みや二階建てバスが出てきます。

 でも、この絵本のテーマは、イギリスならではというものではまったくなく、どこの国・地域の子どもたちにも共通のものと思います。楽しくテレビの西部劇をみていたアーサーくん、「もうおそいからねなさい」とお母さんに注意され、怒り出します。「どうしてそんなことを言うの? い・や・だ!!!」という子どもの気持ち、これがこの絵本のモチーフです。

 アーサーくんの怒りは、とどまるところを知りません。家のなかはめちゃくちゃになり、まちは海に沈みます。「もう じゅうぶん」と誰が言っても、アーサーくんの怒りは収まりません。果ては、地球にヒビが入って割れてしまい、月も星々も何もかも、こっぱみじんに砕かれてしまいます。

 こうやって書いてみると、ひどく暴力的なように思えるかもしれません。でも、子どもの感情には本当にこういうところがあって、それをこの絵本はとてもうまく表現していると思います。大人がなんだかんだ言っても収まらず、自分のまわりを全部こわしてしまうかのような感情の表れ。

 絵は、そんなに暴力的なものではなく、むしろ、ユーモラスなところがあると思います。「何があっても許さない」と怒りに怒ったアーサーくんのへのじ顔と、まわりの大人たちの困った様子が対比されています。ついには星々まで砕いていくところでは、輪郭をブラして描いたり、ぐにゃりと歪めて描いたりして、これも、おもしろい表現。

 そして、「子どもってほんとにそうだよなあ」と思わずうなずくのがラスト。すべてを砕いて、火星のかけらに座ったアーサーくん。着替えてベッドにもぐり込みます。そして、

「ぼく どうしてこんなに おこったんだろう」
でも アーサーには
さっぱり おもいだせなかった

▼ハーウィン・オラム/きたむらさとし『ぼくはおこった』評論社、1996年