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岸田衿子/中谷千代子『ジオジオのかんむり』

 ライオンのなかでも一番強かった「ジオジオ」。文字通り百獣の王。でも、本当は「ジオジオ」はつまらないと感じていました。もうキリンやシマウマを追いかけるのもいやになってしまい、誰かとゆっくり話してみたいと思っていたのです。そんなときに出会ったのが「はいいろのとり」。6つの卵をすべて失っていた「はいいろのとり」に「ジオジオ」は一つの提案をします。それは、「ジオジオ」の頭の冠に卵を生んだらどうかというもの。こうして「はいいろのとり」は冠に巣を作り、「ジオジオ」といっしょに生活し、ひなを育てていくという物語。

 この絵本のモチーフの一つはおそらく老いと孤独。物語のなかで細かく説明されているわけではありませんが、前半の描写からはなんとなく「ジオジオ」の寂寥感が伝わってくるよう。

 たしかに、最初のページでは、りっぱなたてがみに真一文字の口元、鋭い眼光、地面にしっかりと足を下ろした立ち姿。まさに百獣の王の威厳に満ちています。しかし、その目元には皺が刻まれ、表情にも何か憂いが浮かんでいます。

 というのも、「ジオジオ」はすでに年を取り、白髪が増え眼がよく見えなくなっているのです。若い頃にはみんなから恐れられ孤高であることを誇りにしていたかもしれません。ところが、老いた「ジオジオ」にとって、そんな自分の姿はもはや疎ましいだけ。とはいえ、いまとなっては、なかなか素直に他の動物たちと接することも難しい。

 「ジオジオ」のそんな現在を何よりも象徴しているのが、頭上の黄色く輝く冠。他の動物たちは冠が光っただけでも逃げていくのです。脱ぎたくてももはや脱ぐのも困難な冠。それは他者に対する鎧であり、「ジオジオ」の心の鎧だったと言えるかもしれません。

 そして、この物語がすごいなと思うのは、他者を威圧する冠が、まさに新しい生命を育むよりどころになること。それはまた、「ジオジオ」と「はいいろのとり」やその雛たちとの絆でもあります。冠の意味が変わったことで同時に、孤独だった「ジオジオ」の世界もまた変わったわけです。

 ラストページが印象的。明るい色調を背景にして、「はいいろのとり」と七羽の小鳥が「ジオジオ」のまわりを飛び交っています。「ジオジオ」のたてがみやしっぽに留まる小鳥たち。

 途中から「ジオジオ」は眼がよく見えなくなり、ずっとまぶたを閉じているのですが、しかしラストページの「ジオジオ」の表情はとても穏やか。おそらく、「はいいろのとり」とともに過ごし雛たちの成長を見守ることは、それまでの「ジオジオ」にはありえなかった充実した時間だったのではないか、そんなことが感じ取れます。

 ところで、「ジオジオ」の冠について、うちの子ども曰く「バランスがたいへんだねえ」。つまり、卵や雛を載せて歩くは難しいんじゃないかということです。うーむ、なるほどね(^^;)。

 この絵本、おすすめです。

▼岸田衿子 作/中谷千代子 絵『ジオジオのかんむり』福音館書店、1960年(こどものとも傑作集としての発行は1978年)