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酒井駒子『よるくま クリスマスのまえのよる』

 クリスマスイブの夜、「ぼく」と「よるくま」の不思議な交流を描いた絵本。主人公の「ぼく」は、サンタさんが来てくれるかどうか心配しています。なぜなら、「ぼく わるいこだから。きょう ママに いっぱい しかられたから」。ここがなんとも切ない。考えてみれば、クリスマスイブはとても楽しみな時間、もしかすると子どもにとって1年で一番わくわくするような幸福な時間。ところが「ぼく」は心配でたまらないのです。だからこそと言うべきか、「ぼく」はやって来た「よるくま」にサンタクロースのことを教えてあげ、自分が「よるくま」の「サンタさん」になってあげる……。

 前作の『よるくま』を読んだときも思ったのですが、なんとなく愛情に対する不安が一つの共通のモチーフのように感じます。前作では、たしか「おかあさん」をさがす「よるくま」の描写がたいへん鮮烈でした。画面が黒く彩色され「よるくま」は涙を流していたと思うのですが、その画面に至ったとき、うちの子どもがハッとして緊張したことを覚えています。今回は前作のような強い描写はありませんし、一応、ハッピーエンドです。それでも、子どもの不安感が底にあることは伝わってくるような気がします。

 そして、そういう不安感は子どもにとっては日常的なのかもしれません。不安がまったくないことがよいことなのかどうか、私はよく分からないのですが、とはいえ、その不安にきちんと寄り添うことができているかどうか、あまり自信がないです。

 それはともかく、この絵本では「よるくま」と「ぼく」の最初の出会い(?)がもしかすると描かれているのかも。「ぼく」がいまより小さいときに「よるくま」をプレゼントされている様子が回想(?)のようなかたちで描写され、また「ぼく」のベッドにはいつもクマのぬいぐるみが置いてあります。前作でどう描かれていたのかよく覚えていないのですが、あるいはこのクマのぬいぐるみが「よるくま」なのかも。

▼酒井駒子『よるくま クリスマスのまえのよる』白泉社、2000年、[装丁:坂本佳子]