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またき けいこ『たくあん』

 表紙と裏表紙を広げて一つにすると、大きな大きな白い大根が横たわっています。この絵本のテーマは「たくあん」。大根の種がまかれ成長し、畑から抜かれて干され、樽に漬けられ、最後に「たくあん」としておにぎりの横に並べられるまでが描かれています。

 福音館書店の月刊誌「かがくのとも」の1冊ですが、何か科学的説明や図解が載っているわけではありません。むしろ、文章は詩のような趣。けれども、「たくあん」が出来上がるまでのプロセスが丹念に描写されており、一つの食べ物が食卓に並ぶまでの作業の積み重ねと時間の流れを実感できます。

 絵は、ダイナミックな筆致と鮮やかな色彩で、なかなかの迫力。ただし、人間は一人も登場しません。中心をなすのはあくまで大根と「たくあん」。もちろん、「たくあん」は人間の手が加わってはじめて出来上がるわけですし、この絵本でも、大根が干され漬けられることがきちんと描かれています。とはいえ、大根を育て「たくあん」を作ることは、自然の営みや変化を基礎にしていると言えるでしょう。この絵本の描写は、そのことに焦点を当てているように思います。

 使われている色のなかでは、とくに黄色が印象的。最初のページでは、黄色い画面に大根の小さな種がたくさん散りばめられており、ページをめくると、この黄色が暖かな太陽の光であることが分かります。終わりのページでは樽のなかで出来上がったたくさんの黄色い「たくあん」が見開き2ページいっぱいに描かれています。この黄色は、なんとも美味しそう。そして、ラストページは、大きな黄色い太陽(?)に浮かぶ赤唐辛子。

 つまり、「たくあん」の黄色とは、お日様の黄色なんですね。秋の日差しを浴びて大根は生長し、また冬のお日様にあたって甘くなる。太陽の恵みを存分に受けて美味しい「たくあん」が出来上がることが、黄色の彩色からよく伝わってきます。

 あと、興味深かったのは、畑から抜いた大根を木で組んだやぐらに干しているところ。やぐらは畑のそばにあって、幾つも並んでいます。家の軒先に干すというのは、私が小さい頃にもあったと思うのですが、やぐらに干すのは、はじめて知りました。昔からの伝統的なやり方かなと思います。

▼またき けいこ『たくあん』「かがくのとも」2001年11月号(通巻392号)、福音館書店、2001年