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やぎゅうげんいちろう『はなのあなのはなし』

 これはおもしろい! 鼻の穴の仕組みやはたらきなどを扱った科学絵本。表紙も裏表紙も見返しも、穴、穴、穴……。本文では興味深い事実がいろいろ説明されています。うちの子どもといっしょに互いの鼻の穴を見せ合いながら読んでいきました。画面と比べながら「お父さんの鼻の穴はこんな感じ!」。

 他人の鼻の穴をしげしげ見ることなんて、ふつうはないので、なかなか楽しいです。それで、なんとなく分かるなあと思ったのは、次の一文。

ぼくも おじいさんになったら、
あれぐらいの はなのあなに
なるんだろうか?
どきどきしてしまう。

 たしかに自分も小さいころ、父や祖父の鼻の穴を見て何かを感じていたような気がします。とくに鼻毛とかね。考えてみれば、小さな子どもの視点からすると大人の鼻の穴は下からのぞけますし、割と見えやすいですね。

 あと、うちの子どもがおもしろがっていたのは、アザラシやカバなどは鼻の穴を空けたり閉じたりできるというところ。ゴリラの鼻水の話や、鼻の穴のなかに朝顔の種を入れておくと芽が出るというところにも大受けしていました。これ、本当の話なのかな。いや、ありそうな気がします。

 この絵本、科学とはいっても難しいところはぜんぜんなく、非常に身近なところから分かりやすく、ユーモラスに説明しています。しかも、すごいと思うのは、それが科学の基本的な発想法をよく伝えているところ。たとえば最初の方のページでは、いろんな人の鼻の穴を比較してみたり、また人間と動物の鼻の穴を比べたりしています。考えてみれば、比較というのはおそらく科学にとってとても重要な手法と言えるでしょう。その比較の考え方をこれだけ興味深く表しているのは、すばらしいと思います。

 終わりの方では、鼻の穴の他にも身体にはいろいろな穴があり、それらはとても大事であることが説明されていました。うーむ、なるほどなあと納得の結論です。穴という点から自分の身体を見直すのは、とても新鮮でなおかつ重要なんじゃないでしょうか。

 それはそうと、以前も思ったのですが、他の絵本でもやぎゅうさんが描く人物はみんな鼻の穴がりっぱなんですね。鼻の穴というテーマは、やぎゅうさんにぴったり。いや、そんなことを言ったら失礼かな(^^;)。

▼やぎゅうげんいちろう『はなのあなのはなし』福音館書店、1981年(「かがくのとも傑作集」としての刊行は1982年)