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『絵本作家の仕事・実情と問題点』はたこうしろうさんの投稿

 このサイトのおすすめブログの一つ、絵本作家の仕事・実情と問題点は、タイトルの通り絵本作家さんをとりまく状況について毎回いろいろ考えさせられる記事が掲載されています。11月30日付けの最新記事、絵本作家はたこうしろうさんの投稿、はたこうしろうといいますは、絵本に関心を持っている方には、ぜひ一読をおすすめします。絵本について、とても大事な論点が幾つも記されていると思います。

 とくに絵本業界の構造的な特徴とそれがもたらす問題の指摘は、非常に納得しました。もしかすると私も、はたさんが言われている「大人読者」の一人なのかもしれないと思いました。もちろん、うちのサイトは、ウェブの辺境の辺境にあって細々とやっているだけなのですが、しかし、絵本についてあれこれ勝手に書いていることの意味合いについて少し自覚させられた気がします。

 いや、自分でもまだよく理解できていませんね。またゆっくり考えてみたいと思います。

中村翔子/はた こうしろう『しりとりのだいすきなおうさま』

 しりとりが大好きで、何でもしりとりになってないと気が済まない王様の物語。食事も、すべての料理がしりとりの順番で出さないといけないので、家来やコックたちは、てんてこまい。おまけに、料理の最後は、これまた王様の大好きなプリンで終わらないとならないのです。もちろん、しりとりですから、料理の名前が「ん」で終わっているものは(最後のプリンは別として)許されません。たとえば「ラーメン」は御法度。そんな王様に困り果てた家来たちは、一計を案じます。

 この絵本、子どもと一緒にしりとりを確認しながら読んでいきました。表紙や、本文の王様を紹介する最初のページも、よく見ると、描かれたものがちゃんと、しりとりになっています。

 王様の我が儘やそれに振り回される家来たちの様子も、軽快な筆致で描写され、なかなかユーモラス。うちの子どもにも受けていました。

 でも、一つ疑問だったのは、「プリン」の前の料理は何だろう?ということ。うちの子どもと一緒にうんうん考えていたら、妻が一言、「ケチャップ」。おー、さすがー。

 ところが、うちの子ども曰く「ケチャップはそのままでは食べないよ!」。あ、そうだねえ、じゃあ、なんだろう? また考えていると、妻が「ポークチョップ」。おー、これは大丈夫だね。でも、ポークチョップの前の食べ物は何だろう? またまた考えていると、妻が「きりたんぽ」。さすがー。

 「き」が最後に来る食べ物はいろいろありそうなので、これでばっちり。つまり、「プリン」←「ポークチョップ」←「きりたんぽ」ですね。みなであれこれ考えるのは、なかなか楽しいです。ちょっと食い合わせが悪いかな(^^;)。

 あ、いま裏表紙を見ていて気が付いたのですが、「プリン」←「スープ」というのも、いいですね。でも、「す」で終わる料理って何だろう?

▼中村翔子 作/はた こうしろう 絵『しりとりのだいすきなおうさま』鈴木出版、2001年

きむら ゆういち/はた こうしろう『ゆらゆらばしのうえで』

 「うさぎ」とそれを追いかける「きつね」は、丸太橋にさしかかります。ところが、大雨で一本の丸太だけになっていた橋は、2匹が乗ったとたんに土手からはずれ、フラフラとシーソーのようにゆれはじめます。「うさぎ」と「きつね」は「ゆらゆらばし」の上で立ち往生。うっかり動いたら2匹とも逆巻く川に落ちてしまい、助かりません。動きの取れない2匹は話をすることしかできず、やがて心を通わせはじめます。

 このストーリー、同じく木村裕一さんが文を担当した『あらしのよるに』とよく似ています。もちろん、『あらしのよるに』のオオカミとヤギは互いの勘違いから友達になるわけですし、細部はぜんぜん違います。とはいえ、本来は食べる/食べられる関係にある2匹が特異な状況のなかで不思議な友情を育んでいくというモチーフはまったく同じです。うちの子どもも、読み聞かせのあと「似てるねえ」と言っていました。

 そういえば、タイトルも少し似てますね。『あらしのよるに』と『ゆらゆらばしのうえで』ですから、同じく「の」をはさんでの助詞止めです。

 それはともかく、この絵本でおもしろいと思ったのは、まずは縦長の造本。

 縦31センチ、横19センチという縦長の紙面がとても効果的に生かされています。「ゆらゆらばし」はほとんどいつも紙面の上方に描かれており、その下の広く白い空間が、橋の高さ・谷の深さを物語っています。

 また、見開き2ページの中央に丸太を支える橋脚が描かれ、左に「きつね」、右に「うさぎ」が配置されています。2匹が動いてバランスが崩れると丸太がシーソーのように上下し、この描写は、2匹が「お互いの重さ」を必要としいわば運命共同体であることを鮮明に表していると思います。

 それから、「ゆらゆらばし」の下の逆巻く川の描写もおもしろいと思いました。「うさぎ」や「きつね」、それから「ゆらゆらばし」は、たとえば切り絵のように輪郭がくっきりと鋭角的に描かれています。これに対し、紙面の一番下に描き出されている川の流れは、とても荒々しいタッチで、色の飛沫が飛び散ったかのような彩色もされています。激しく荒れ狂う川面と水しぶきを感じ取ることができます。

 あと、カバーには、木村裕一さんと秦好史郎さんの写真が載っているのですが、これがお二人の幼稚園・保育園時代のものなのです。かわいい男の子のモノクロ写真です。これもおもしろい趣向ですね。

▼きむら ゆういち 文/はた こうしろう 絵『ゆらゆらばしのうえで』福音館書店、2003年